超低栄養性細菌の新奇炭酸固定経路の解析とその利用(吉田)
私たちは様々な自然環境中での微生物の役割、あるいは自然界からの有用微生物の単離に関する研究にも取り組んでいます。我が国は緊急時に備えて、輸入した原油を全国の備蓄タンクに保管しています。私たちは原油から直接DNAを抽出し、PCRにより16S rRNA遺伝子を増幅する方法を初めて確立しました。さらに16S rRNA遺伝子のDGGE解析により、備蓄原油中には様々な細菌が存在していることを明らかにし、備蓄施設における配管などの腐蝕、備蓄原油の品質管理に影響を及ぼす可能性を示しました。また、備蓄原油からアルカン資化性菌、ナフタレンなど多環芳香族化合物の分解菌、低栄養で生育する菌など、多数の微生物を単離しました。
有用微生物の単離については「低栄養性細菌」をターゲットとして研究を進めています。低栄養性とは極端に炭素源濃度が低い条件(<1 mg/L)で生育できる性質と定義しており、これらの微生物は産業上でも有用であると考えています。例えば、微生物による物質生産(bioconversion)においては、微生物細胞を低コストの触媒として使用することができます。また、微生物を用いた環境浄化(bioremediation)においては、汚染された環境で生育するために必要な栄養源を最少限に抑えることができます。Rhodococcus erythropolis N9T-4株は鹿児島県志布志備蓄基地の原油から単離した細菌で、極端な低栄養性を示します。炭素源を含まない無機塩固体培地で良好に生育しますが、CO2を制限すると生育しません。しかしながら、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を培地中に添加するとCO2制限下でも生育を示すため、炭酸固定を行いながら独立栄養的に生育している可能性があります。また、既存の独立栄養細菌に必要な光・金属などのエネルギーを加えなくても生育することから、本菌は効率的なCO2固定経路を有していると考えられます。現在、ポストゲノム解析技術(メタボローム/プロテオーム/トランスクリプトーム)を駆使し、本菌のCO2固定経路について解析しています。また、自然界での低栄養性細菌の役割についても研究を進めています。
<発表論文>
- Nobuyuki Yoshida*, Takanori Yano*, Kaori Kedo, Takuya Fujiyoshi, Rina Nagai, Megumi Iwano, Eiji Taguchi, Tomoki Nishida, Hiroshi Takagi: A unique intracellular compartment formed during the oligotrophic growth of Rhodococcus erythropolis N9T-4. *These authors contributed equally to this work. Appl. Microbiol. Biotech., 101, 331-340 (2017).
- 吉田信行, 矢野嵩典, 湯 不二夫, 高木博史: 大気中から主要栄養源を取り入れる超低栄養性細菌 -その炭素および窒素代謝. バイオサイエンスとインダストリー, 73, 215-219 (2015).
- T. Yano*, N. Yoshida*, F. Yu, M. Wakamatsu and H. Takagi: The glyoxylate shunt is essential for CO2-requiring oligotrophic growth of Rhodococcus erythropolis N9T-4. *These authors contributed equally to this work. Appl. Microbiol. Biotech., 99, 5627-5637 (2015).
- N. Yoshida, S. Inaba and H. Takagi: Utilization of atmospheric ammonia by an extremely oligotrophic bacterium, Rhodococcus erythropolis N9T-4. J. Biosci. Bioeng, 117, 28-32 (2014).
- T. Yano, N. Yoshida and H. Takagi: Carbon monoxide utilization of an extremely oligotrophic bacterium, Rhodococcus erythropolis N9T-4. J. Biosci. Bioeng., 114, 53-55 (2012).
- N. Yoshida, T. Hayasaki and H. Takagi: Gene expression analysis of methylotrophic oxidoreductases involved in the oligotrophic growth of Rhodococcus erythropolis N9T-4. Biosci. Biotech. Biochem., 75, 123-127 (2011).
- 吉田信行, 大畑奈緒子:超低栄養性細菌がもつユニークなCO2要求性—新しい炭酸固定系の存在?. バイオサイエンスとインダストリー, 66, 70-74 (2008).
- N. Yoshida, N. Ohhata, Y. Yoshino, T. Katsuragi, Y. Tani and H. Takagi: Screening of carbon dioxide-requiring extreme oligotrophs from soil. Biosci. Biotech. Biochem., 71, 2830-2832 (2007).
- N. Ohhata, N. Yoshida, H. Egami, T. Katsuragi, Y. Tani and H. Takagi: An extremely oligotrophic bacterium, Rhodococcus erythropolis N9T-4 isolated from crude oil. J. Bacteriol., 189, 6824-6831 (2007).
- N. Yoshida, K. Yagi, D. Sato, N. Watanabe, T. Kuroishi, K. Nishimoto, A. Yanagida, T. Katsuragi, T. Kanagawa, R. Kurane and Y. Tani: Bacterial communities in petroleum oil in stockpiles. J. Biosci. Bioeng., 99, 143-149 (2005).