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奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

Seminar セミナー情報

植物成分を減らす、増やす、変える:植物代謝工学の3つの挑戦

演題
植物成分を減らす、増やす、変える:植物代謝工学の3つの挑戦
講演者
庄司 翼 博士(富山大学・和漢医薬学総合研究所)
使用言語
日本語
日時
2025年12月9日(火曜日) 14:00~14:45
場所
大セミナー室(C109)
内容

多種多様な植物成分を合成・蓄積するメカニズムが分子的に理解されるようにな り、代謝工学的にそれらを改変できるようになりつつあります。健康増進に資する植物資 源の開発に向けて、我々が取り組む3つの代謝改変の事例について、学術的および産 業的意義と展望を概説します。 
1 減らす:超低ニコチンタバコの作出 
WHOは「超低ニコチンたばこ」の導入による禁煙促進を勧告しております。ニコチン生合 成酵素BBLや、生合成を司る転写因子ERF189/ERF199の機能を欠損させることで、 WHO基準をみたす「超低ニコチンタバコ(Nicotiana tabacum)」の育種が可能であること がわかりました。さらなる改変ターゲットの探索を進めております。 
2 増やす:一過性発現によるステロイド化合物の生物生産 
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の一過性発現系を用いて抗体医薬・ワクチ ンなどタンパク質製剤が生産されています。園芸植物ペチュニア(Petunia hybrida)にお いて転写因子PhERF1を発現させることでステロイド化合物を短期間での大量合成させ ることが可能です。この転写因子は広範な植物種に存在することから同様の方法で有用 成分の蓄積をさまざまな植物で導けることが期待されます。様々な薬用植物に本法が適 用できるのかを検討しています。転写因子により特定骨格を有する化合物の蓄積を導い た上で、修飾酵素なども同時改変することで、組成を最適化することも考えられます。 
3 変える:精密ゲノム育種による希少天然甘味成分の増産 
南米原産のキク科植物であるステビア(Stevia redanduana)は、種特異的にノンカロリー 甘味成分であるステビオール配糖体(SG)を葉に高蓄積(乾燥重量として10~20%)しま す。ステビア葉は食品添加物などとして用いられています。SGの中でもより高度に配糖 化されたレバウオシドD (RebD)とレバウオシドM (RebM)は、味覚特性に優れますが、ス テビア組織にはごく微量(乾燥重量の0.3~0.4%)しか存在しません。ステビアの高精細ゲ ノム配列を決定し、オミックス解析に行い、「超高RebD/Mステビア」を作出するためのポ イントを明らかとしました。また、RebD/Mの合成の鍵酵素であるUDP-グルコース依存性 配糖化酵素UGT91D2の特定アミノ酸の置換により、これら希少甘味成分の増産が可能 であることを示しました。精密ゲノム編集技術による本置換のゲノムへの導入が、ステビ ア植物におけるSG組成に与えるインパクトを検討する必要があります。

問合せ先
植物二次代謝
峠 隆之 (tohge@bs.naist.jp)