分子量約4万の細胞外分泌糖蛋白質であるWnt(ウィント)は複数のシグナル経路を活性化することにより、初期発生における器官形成や出生後の細胞の増殖や分化、運動、極性を制御する。私共はWntシグナルを蛋白質間相互作用と翻訳後修飾を基盤に生化学的に解析することにより、Wntシグナル経路の活性制御機構を明らかにしてきた。Wntシグナル経路の新規構成分子として同定したAxinとそのホモログAxilはGSK-3βや癌抑制遺伝子産物APC、β-カテニンと複合体を形成することにより、β-カテニンのリン酸化とユビキチン化による分解を促進することを明らかにした。哺乳動物においてWntは19種類、7回膜貫通型受容体Frizzledは10種類、共役受容体として機能する1回膜貫通型受容体のLRP6やRor2等が複数存在し、Wntと受容体の組み合わせにより細胞内シグナル経路の特異的活性化が決定されると考えられていた。私共はそれらに加えて受容体エンドサイトーシス経路の違いによってWntシグナルが選択的に活性化されることを示した。さらに最近、Wntの翻訳後修飾による細胞外分泌の制御機構を明らかにしている。本講演では翻訳後修飾によるWntシグナル経路の活性制御機構を概説した後、複数存在するWntシグナル経路を選択的に活性化する分子機構について議論したい。
【参考論文】
1. Yamamoto, H., Awada, C., Hanaki, H., Sakane, H., Tsujimoto, I., Takahashi, Y., Takao, T., and Kikuchi, A. (2013) “Apical and basolateral secretion of Wnt11 and Wnt3a in polarized epithelial cells is regulated by different mechanisms.” Journal of Cell Science 126:2931-2943
2. Yamamoto, H., Sakane, H., Yamamoto, H., Michiue, T., and Kikuchi, A (2008) “Wnt3a and Dkk1 regulate distinct internalization pathways of LRP6 to tune the activation of β-catenin signaling.” Development Cell 15:37-48
3. Yamamoto, H., Komekado, H., and Kikuchi, A. (2006) “Caveolin is necessary for Wnt-3a-dependent internalization of LRP6 and accumulation of β-catenin.” Development Cell 11:213-223