多細胞生物の発生の過程は、細胞分化・器官形成のマスター遺伝子にコードされる転写因子が下流の転写因子を制御するカスケードとして理解されている。モデル植物シロイヌナズナにおいて花形成のマスター遺伝子と考えられるのが、LEAFY (LFY)である。LFY遺伝子は植物固有の転写因子をコードしており、花芽形成に必要かつ十分であることが示されている。したがって、LFY遺伝子を中心とした上流・下流の因子のネットワークを明らかにすることで、花の発生と分化、そして生殖生長システムの全容が理解できると期待される。
私は、これまでにLFY遺伝子を中心とした上流と下流の遺伝子ネットワークの研究を行った。LFY遺伝子の上流では、オーキシンのシグナルに応答してはたらく転写因子AUXIN RESPONSE FACTOR5/MONOPTEROSが重要な役割をはたすことを明らかにした。一方、LFY遺伝子の下流では、ジベレリンの濃度調節とそのシグナル伝達を抑制するはたらきをもつDELLA/SQUAMOSA PROMOTER‐BINDING‐LIKE PROTEIN9複合体が、花芽の性質を決定する上で鍵となることを見出した。本セミナーでは、それらの研究成果と今後の研究方向について議論したい。
【参考論文】
1. Yamaguchi, N., Winter, C.M.,Wu, M‐F., Kanno, Y., Yamaguchi, A., Seo, M., Wagner, D.(2014)
“Ginnerellin Acts Positively Then Negatively to Control Onset of Flower Formation in Arabidopsis”
Science 344:638‐641
2. Yamaguchi, N., Wu, M‐F., Winter, C.M., Berns,M.C., Nole‐Wilson, S., Yamaguchi, A., Coupland, G., Krizek, B.A., Wagner, D.(2013)
“Molecular Framework for Auxin‐Mediated Initiation of Flower Primordia”
Developmental Cell 24:271‐282