各班別研究内容の概要
研究項目 A01 ―生存戦略研究―
研究項目 A02 ―成長戦略研究―
研究課題名:深水条件下における節間伸長の分子機構
- 研究代表者
- 芦苅 基行(名古屋大学生物機能開発利用研究センター・教授)
東南アジアのデルタ地帯に生育する浮きイネは、通常の栽培条件で 1m 程度の草丈であるが、水位の上昇に反応して茎を伸長させ最大 7m 程度まで伸長する。これは、移動することの出来ない植物が新しい環境に適応するために獲得したストレス回避機構であり、植物の成長戦略を環境突破力として活用する典型的な例である。そこで、本研究ではイネ品種間の多様性や栽培種と近縁野生種との多様性を利用することにより、これまで変異体では検出・同定が困難であった水ストレス回避を制御する遺伝子群を単離し、分子生物学的・生化学的手法を用いてその分子メカニズムを解明すると共に、それぞれの遺伝子の相互作用を明らかにする。また、イネ野生種は世界中の様々な地域に適応しているが、これら野生イネが獲得した多様な成長戦略および環境突破力についても明らかにしていく。
研究課題名:根の成長を支える細胞増殖の相転換機構の解明
- 研究代表者
- 梅田 正明(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・教授)
根の形態は土壌環境により自在に変化する。このような変化をもたらすのは、根端における細胞分裂サイクルの制御と、細胞分裂を止めた細胞が DNA 複製のみを繰り返すエンドサイクルの制御である。しかし、分裂サイクルからエンドサイクルに至る一連の過程については、未だに分子レベルの知見があまり蓄積されていないのが現状である。そこで、本研究では細胞周期制御の視点から根の成長過程を解明することにより、環境ストレスに対する植物の突破力を成長戦略として理解することを目指す。まず、分裂サイクルからエンドサイクルへの相転換機構を解明するために、根の伸長領域で特異的に発現する遺伝子を用いて上流の発現制御因子を単離・解析する。また、根端分裂組織の維持に関わる転写ネットワークと細胞周期制御系とのクロストークについても解析する。さらに、細胞周期モニタリングシステムにより得られたデータを数理モデルにインプットすることにより、栄養環境に応答した器官成長の制御メカニズムを明らかにする。
研究課題名:植物の分枝を制御するメカニズムの解析
- 研究代表者
- 経塚 淳子(東京大学大学院農学生命科学研究科・准教授)
分枝(枝分かれ)は植物の形態を決める重要な要因である。また、さまざまな環境条件に応答して分枝パターンを変化させることは、植物の成長戦略のひとつである。分枝は、葉の付け根に腋芽が形成されることにより開始する。形成された腋芽はそのまま成長するわけではなく、その形成部位や環境要因によって成長するか休眠するかという決定が下される。
腋芽休眠の制御に関しては、最近、新規ホルモンの発見など研究が進展したが、腋芽の休眠現象そのものの理解は進んでいない。そこで、本研究では腋芽の包括的トランスクリプトーム解析を行い、腋芽の休眠/成長を分子レベルで詳細に記述する。この情報を基に腋芽の休眠を説明するモデルを構築するとともに、重要遺伝子の機能解析を進める。さらに、環境条件が腋芽での遺伝子発現に与える影響と腋芽の挙動との関連を網羅的に解析し、環境条件/腋芽の反応/個体としての分枝パターンを統合するメカニズムの理解をめざす。
研究課題名:環境変動に応答した植物の細胞・器官サイズ制御
- 研究代表者
- 杉本 慶子(理化学研究所環境資源科学研究センター・チームリーダー)
植物の成長は細胞増殖とその後の伸長成長により規定される。細胞成長を最終的に停止させる仕組みは植物の器官サイズを決める上で極めて重要であり、その制御は様々な環境要因に応答した植物器官の柔軟な成長制御を実現していると考えられる。本研究では細胞成長の停止に働く制御メカニズムを明らかにすることにより、環境変動に応答した細胞・器官サイズの制御機構についての理解を進める。
我々は最近、シロイヌナズナの転写因子 GTL1 が細胞成長の終了時期で特異的に発現し、核 DNA の倍加を抑制することにより細胞成長を停止させることを明らかにした。本研究ではまず GTL1 依存的な植物の細胞成長のメカニズムを解明する。具体的には GTL1 の下流で働き、植物の細胞成長を直接的に制御する遺伝子を単離し、機能解析を進める。さらに環境条件に応答して GTL1 の発現を規定する上流の転写機構について明らかにし、植物の成長戦略として GTL1 を中心とした分子制御ネットワークの解明を目指す。