本領域研究の概要

植物は様々なストレスを受けている

植物はこれまで様々な環境変動の下で生存・成長するために、巧妙な戦略をたくさん獲得してきました。その戦略の分子機構の一端が近年明らかになってきました。例えば、イネは病虫害などのストレスから身を守るために、多量のケイ素を吸収する能力を発達させ、細胞壁を強化するように進化してきました。また、東南アジアに生育する“浮きイネ”は洪水時に1日30cmもの速度で伸長し、葉の先端を水面上に出して酸素を取り込むことにより、冠水時の低酸素ストレスを突破する能力を獲得してきました。このように、個々のストレスに対して耐性を発揮する機構や成長をコントロールする機構については、これまで日本の研究者も含めて精力的に研究が行われてきました。

研究相関図

しかし、実際の自然環境下ではストレス耐性と成長制御は複雑に絡み合い環境突破力を発揮しているので、個々の研究だけでは植物個体の環境変化への応答を予測することは到底できません。したがって、個々の実験科学者が積み重ねてきた知見を理論的に束ねて数理モデルを開発し、それを基に植物の挙動を組織・個体レベルから地球環境レベルに渡って包括的に理解することが今まさに強く求められています。 そこで、この新学術領域研究では10人の計画班員を中心にして以下のような3つの研究項目を設定し、植物の環境突破力を総合的に理解することを目指します。

研究項目 A01 ―生存戦略研究― Go

この研究班では個々のストレス(例えば土壌酸性化、栄養飢餓、乾燥や高温)やこれらが複合的に絡むストレスに対する応答を分子レベルで解明し、環境突破力を支える分子基盤を明らかにすることを目的とします。また、各種ストレス間のクロストークを明らかにすることにより、複合ストレスに対する応答機構についても迫り、大地・大気環境の変動に対処するために植物がもつ巧妙な生存戦略についてさらに理解を深めます。

研究項目 A02 ―成長戦略研究― Go

この研究班では個々のストレスや複合ストレスに対する応答機構として、植物が成長を変化させることにより環境突破力を獲得する機構を解明します。環境変動に対する植物細胞の分裂や伸長の応答機構を解明します。また、環境変動に応答した細胞成長の制御ネットワークの解明も目指します。

研究項目 A03 ―モデリング研究― Go

この研究班では数理モデルとコンピュータシミュレーションを駆使することにより、ストレス環境下で植物が示す環境突破力の分子メカニズムを理論的に明らかにすることを目的とします。また、今後世界各地で複雑化することが予想される洪水、乾燥や窒素循環などの大地環境変動を予測し、それを数理モデルにフィードバックします。これにより、特定の環境条件下で高い生産性を実現するために必要な遺伝子ネットワークの解明に取り組みます。

以上の研究を支援するためにストレス評価センターを設け、各種ストレス応答の評価・解析を行います。