PROJECT1

植物の動的成長を可能にするメカニズム


植物は外的・内的な因子に応じて自らの形を柔軟に変化させながら成長します。この特性は、生育環境を自ら変えることが出来ない植物にとって重要な生存戦略の1つです。植物が環境に応じて形や成長方向を変えるためには、個々の細胞が分裂周期や形態を変化させながら、かつ全体として統一された行動をとらなければなりません。そのような複雑な芸当を、中枢神経を持たない植物がどのようにして成し遂げているかは大きな謎に満ちています。

私たちは、上記の問いをシロイヌナズナの根をモデルとした研究から解き明かそうとしています。植物の発生研究において、シロイヌナズナの根は別格の存在です。根端部で繰り返される規則的な細胞分裂とその後の細胞伸長、それに続く細胞運命の決定と機能発現に至る過程を容易に観察できる優れたモデル系として、シロイヌナズナの根は世界中の研究室で広く用いられ、植物の主要な発生メカニズムの解明に大きな貢献を果たして来ました。
 

シロイヌナズナの根は、植物の「定常的」な成長と発生を研究するには優れた実験系ですが、これを「動的・可塑的」な発生過程の研究に用いるには、大きな技術的障壁がありました。根の先端は器官の成長につれて動いてしまうため、根端部で起こる細胞や遺伝子発現の動態を高い時空間解像度でイメージングすることが出来なかったのです。私たちは、伸長する根の先端を自動的に追尾できれば、植物の動的な発生過程を細胞・遺伝子レベルで解析する革新的な研究が可能になると考えました。このような研究の構想は中島が20年以上前から抱いていたものでしたが、研究室の先生方や顕微鏡メーカーの努力により、最近になってようやく実用化に漕ぎつけました。

開発された「水平光軸型 動体トラッキング共焦点顕微鏡」は、重力方向に伸長する根の先端を、数日間にわたって高解像度でイメージングすることが出来ます。細胞1つ1つの分裂や伸長がどのように変化し、これが根の形態や動きにどのように出力されているのか、またそれらの制御に関わる遺伝子やタンパク質の発現がどのように変化するのかを、つぶさに観察することが出来ます。特定の遺伝子の働きを変化させた変異体や形質転換植物を観察することで、細胞や器官の動態がどのような遺伝子の作用で、どのように制御されるのかを解析することも出来ます。

例えばこの顕微鏡を使うと、根の先端を覆う「根冠組織」の細胞が一定の周期で剥がれ落ちてゆく様子や、その際に細胞壁分解酵素遺伝子の周期的な活性化とタンパク質の細胞外へ分泌が密に連動している様子を観察することが出来ます。根冠は根の重力感受や土壌環境との相互作用を担い、根の成長を決定する重要な組織ですが、その機能発現の機構はほとんど分かっていません。私たちは、分子遺伝学の手法にイメージングや画像解析技術を融合することで、根の動的成長を司る遺伝子と作動機構を明らかにしようとしています。


 研究成果紹介ビデオ 


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