content ▼

複製フォーク

DNA複製フォーク(DNA replication fork)とは?

DNA複製ではゲノム上の複製開始点で二本鎖DNAが一本鎖に分離して、Y字型の複製フォークが複製開始点の両側に1個ずつ形成されます。複製フォークでは、DNAポリメラーゼやDNAヘリカーゼなどを含む巨大なタンパク質集合体(レプリソーム)がDNA合成に働きます。ゲノム上でレプリソームが新しいDNA鎖を複製フォークで合成すると、複製フォークはその合成したDNAの長さ分だけゲノム上を移動します。

ゲノム上でレプリソームの速度 = 複製フォークの速度 = DNA鎖の伸長速度

つまり、レプリソームの速度は、複製フォークで合成されるDNA鎖の伸長速度に一致します。レプリソームでは、大腸菌でもヒト細胞でも基本的に同じ機能を持つ酵素群が働きます。複製フォークで働く酵素群の高い類似性にも拘わらず、大腸菌のレプリソームはヒトのレプリソームよりも10倍以上も高速な分子マシーンです。

DNA複製フォーク(レプリソーム)の速度はどれくらいなのか?

複製フォークの速度(レプリソームの速度)は、大腸菌で毎秒約700塩基(約700塩基/秒)、ヒト細胞で毎分約1000塩基(約1000塩基/分)です。二本鎖DNAを新幹線のレールと見なして、「レールの枕木の間隔」(約60cm)と「DNAの塩基対の間隔」を同じ長さと仮定すると、大腸菌のレプリソームの速度 (約700塩基/秒)は時速約1500km/hと計算されます。これは、N700系のぞみの最高速度(300km/h)の5倍で、標準大気中の音速(1225 km/h)よりも高速です。

一方、同じ仮定で、ヒト細胞のレプリソームの速度(約1000塩基/分) は時速約40km/hと計算されます。これは、JR在来線の最高速度(約130km/h)の半分以下で、市街地での車の規制速度と同じです。つまり、大腸菌とヒト細胞のレプリソームの速度差は、音の速さと市街地を走る車の速度の違いくらい大きいことになります。

ゲノム上はDNA複製フォーク(レプリソーム)にとってフリーウェイか?

高速道路とレールは、それぞれ車と列車にとってのフリーウェイ(交通が妨害されない道)です。一方、分子マシーンであるレプリソームにとっての細胞のゲノムDNAは、フリーウェイではありません。DNAに結合してる様々な蛋白質や、転写中のRNAポリメラーゼとの衝突によって、レプリソームの進行は妨げられます。また、DNA自体も平坦な道でなく、様々なDNAの高次構造物もレプリソーム移動の障害となります。レプリソームがゲノム上のこれらの障害をどのように克服しているかを解明することは、ゲノムDNAの正確な複製を理解する上で重要です。しかし、ゲノム上でのレプリソーム移動の動態は詳細に明らかにされていません。

ゲノム上で動いている分子マシーンの速度をどの様にして測るのか?

ゲノム上のレプリソームの動き(速度)は、どの様にして解析できるのでしょうか? 先に述べたように、レプリソーム(複製フォーク)の速度とDNA鎖の伸長速度は同じです。それで、ゲノム上でのレプリソームの速度は、DNA鎖の伸長速度から求めることができます。

ところが、大腸菌細胞内でDNA鎖の伸長速度を正確に計ることは、これまで困難でした。最近、私たちは新しい細胞株eCOMB(E. coli for combing)を構築してそれを可能にすることに成功しました(Pham et al., Molecular Microbiology 90: 586-596 (2013))。この方法では、eCOMB細胞を特殊なヌクレオチド(チミジンの類似体)で短時間標識して、このヌクレオチドを取り込んだゲノムDNAの長さを、DNAコーミング法で測定します。

DNAコーミング法は、シラン分子の自己組織化単分子膜 (SAM) を形成させたガラス表面にDNAを真っ直ぐに伸ばして貼り付けて、特殊なヌクレオチドを取り込んだDNAの長さを一分子ずつ顕微鏡で測る解析法です。このヌクレオチドを取り込んだDNAの長さを標識時間で割って、レプリソームの速度を決定します。この方法を用いて、私たちはレプリソームの高速な速度のアクセル分子、そしてゲノムDNAが傷ついたときに細胞応答により減速するブレーキ分子を解析しています。

▶ 複製フォークの速度調節についてもっと見る

▶ 研究の概要に戻る

PageTop