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2026.02.02

植物は“いつ”成長するのか

植物生理学研究室・助教・久保田 茜

要旨

植物の成長はランダムに起こるのではなく、体内時計によって最適な時刻に調節されていることが知られています。このような時刻依存的な成長制御は、主に地上部の器官を対象に研究されてきましたが、地下器官である根における実証例はほとんどありませんでした。私達は最近、シロイヌナズナの根毛伸長が概日リズムにより制御されていること、さらにその制御中枢が地上部の概日時計であることを明らかにしました。機械学習による自動解析やライブイメージングを組み合わせることで、根毛伸長過程を定量的に解析し、長距離シグナルの関与を示しました。本稿では、これらの成果と現在進めている研究について紹介します。

主要関連論文
Ikeda H, Uchikawa T, Kondo Y, Takahashi N, Shishikui T, Watahiki MK, Kubota A, Endo M. Circadian Clock Controls Root Hair Elongation through Long-Distance Communication. Plant Cell Physiol. 2023 Dec 6;64(11):1289-1300. " doi: 10.1093/pcp/pcad076.

1.はじめに ― 植物の成長はランダムではない

私たちは「植物はいつでも成長している」と思いがちですが、実際にはそうではありません。植物は概日時計と呼ばれる体内時計をもち、約24時間周期で変動する環境に合わせて生理応答を最適化しています。例えば胚軸の伸長は夜明け前後に最も活発になることが知られており、成長が時刻によって制御されている典型例です。

しかし、これまでの研究は主に地上部に着目した研究に集中しており、地下部の根の成長が同様に時間制御されているかどうかはほとんど分かっていませんでした。そこで私たちは、根の表面に存在する「根毛」に着目しました。根毛は1細胞からなる水分や栄養吸収を担う重要な組織であり、細胞伸長の理解を深めるための新たなモデルとなることが期待されています。

2.偶然の発見から見えてきた根毛のリズム

実は、根毛長のリズムに気づいたのは全くの偶然でした。根の屈性を観察していた修士課程の学生さんが、シャーレを眺めながら「この根っこ、よく見るとナミナミしていますね」と教えてくれたのがきっかけです。「これはおもしろい」と感じ、まずは教科書的な実験から始めました。シロイヌナズナを12時間明期12時間暗期(LD)条件で育成し、2日間で形成された根毛の長さを解析したところ、野生型では根毛の長さが主根に沿って周期的に変化することが分かりました。この“波”の間隔は約24時間周期に対応しており、明暗条件から連続明(LL)条件へ移行しても持続していました(図1)。一方、概日時計の構成因子であるTOC1遺伝子を欠損した変異体では、LL条件下でのみこの周期性が消失しました。この結果から、根毛長のリズムは光だけでなく、概日時計にも依存していることが示されました。

fig.1

図1.シロイヌナズナでみられた根毛長のリズム
(A) 明暗条件 (LD)と連続明条件 (LL) で3日間生育させたシロイヌナズナの根の様子。図は顕微鏡写真を二値化したもの。(B) 根毛長を定量した結果 (n=3)。

ただし、根毛は非常に数が多く、長さや位置もばらつくため、従来の手作業による測定では解析数に限界がありました。そこで、画像解析を専門にする研究者との共同研究を通じてU-Netを基盤とした機械学習モデルを構築し、顕微鏡画像から根毛のみを自動的に抽出・計測する手法を導入しました (図2)。この方法により、1枚の画像に写っている多数の根毛について、長さや主根上での位置を一括して定量化できるようになり、手動測定とも高い一致を示しました。多数個体・多時点のデータをまとめて解析できるようになったことで、主根の成長方向に沿った根毛の発生パターンや個々の根毛長の解析を統計的に評価することが可能となり、根毛伸長リズムの存在を客観的に検証できました。

fig.1

図2.機械学習による根毛長の自動計測システム

こうして定量解析の基盤が整ったことで、次に「どこで」このリズムが制御されているのかを調べる段階へと進みました。制御部位を特定するために部分照射実験および接ぎ木実験を行ったところ、地上部のみに光を照射した場合でも根毛リズムが維持されることが分かりました。このことから、光入力は主に地上部で受容されていることが示されました。

さらに、野生型とtoc1変異体を組み合わせた接ぎ木実験では、地上部が野生型であれば地下部がtoc1であってもリズムが回復し、 逆に地上部がtoc1である場合には地下部が野生型でもリズムが失われました。 これらの結果から、根毛伸長リズムの制御中枢は地上部に存在し、TOC1がその鍵因子であることが示されました。

3. 根毛伸長を支える分子ネットワーク

では、この時間制御は細胞レベルではどのように実現されているのでしょうか。根毛の伸長は、複数の転写因子が互いにバランスを取りながら制御しています(1)。これらの遺伝子の一部では、転写制御に概日時計が関与することや、変異体における根毛長リズムに異常がみられることが分かってきました。このことから、概日時計が根毛伸長を担う転写因子ネットワーク全体に影響を与えている可能性が考えられます。また、根毛細胞系譜で限定的に概日時計をかく乱させると根毛長が変化する傾向が観察されています。この結果は、地上部だけでなく、根毛細胞内でも概日時計が局所的に転写因子ネットワークを調節している可能性を示唆しています。現在、この点についてさらに詳しい解析を進めているところです。

4. いつ・どのように伸びるのか

ここまでの解析では最終的な根毛長に着目してきましたが、概日時計が伸長過程のどの段階に作用しているのかは分かっていませんでした。そこで30分間隔のタイムラプス撮影を行い、1本1本の根毛の伸長過程を追跡しました。その結果、野生型では主観的夜明けに根毛伸長が最も活発になることが分かりました (図3)。さらに詳しく解析すると、概日時計は伸長開始時刻だけでなく、根毛の伸長速度や、伸長時間といった複数の過程に関与していることが示唆されました。これらの要素が組み合わさることで、最終的な根毛長のリズムが形成されていると考えられます。

fig.1

図3 タイムラプス撮影による根毛伸長動態の解析
(A) LL条件下で生育させた野生株 (上段) とtoc1変異体 (下段) の根毛の様子。明暗条件で生育時に明期だった時間帯を白、暗期だった時間帯を灰色のバーで示している。数字はLL移行後の時間経過を示す。 (B) Aを定量化した結果。各根毛が伸長を開始したタイミングをx軸に、最終根毛長をy軸に示す。野生株でみられた概日リズムがtoc1変異体で攪乱されている様子が分かる。

では、地上部の時計情報はどのように根へ伝わるのでしょうか。その候補としてショ糖に注目しました。ショ糖は光合成産物として葉で合成され、維管束を通じて根へ輸送されます。異なる時刻にショ糖を与えて根毛伸長への影響を調べたところ、処理する時間帯によって伸長促進効果の大きさが変化することが分かりました。特に、根毛伸長が活発な時間帯にショ糖を与えた場合に効果が顕著でした。これらの結果から、ショ糖は単なる栄養源として働くだけでなく、時刻情報を反映した長距離シグナルとしても機能している可能性が示されました。

5. 根の成長を時間的に制御するしくみ

以上の結果から、根毛伸長は地上部の概日時計に由来する時刻情報と、根毛細胞内で働く制御機構が重なり合って調節されていることが見えてきました。これまであまり注目されてこなかった「根の成長リズム」にも、地上部からの情報が関わっていることを示せた点が、本研究の一つのポイントだと考えています。

今後は、長距離シグナルと細胞内シグナルがどのような分子機構によって統合され、伸長開始や伸長速度に反映されるのかを明らかにするとともに、この時間制御が植物の環境適応にどのような意味をもつのかについて、さらに理解を深めていきたいと考えています。

KUBOTA Akane

著者

久保田 茜 Researchmap

略歴

2014年京都大学大学院生命科学研究科卒業,ワシントン大学生物学部 博士研究員を経て,2018年より現職

  • 研究内容:植物の季節応答の分子メカニズムの解明
  • 抱負:コツコツ進める。
  • 関心ごと:おいしい地ビールと楽して痩せる方法

植物生理学研究室

久保田 茜 NAIST Edge BIO, 0034. (2026)

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