NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人発酵研究所の平成28 年度(2016 年度)大型研究助成の助成対象者に選ばれました。

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人発酵研究所の平成28 年度(2016 年度)大型研究助成の助成対象者に選ばれました。本助成は、微生物の分類、応用、環境に関する研究を行っている個人に対して助成金を支給し、微生物学の進歩、発展に寄与することを目的としています。 

助成受託のコメント 

私たちの研究室では最近、酵母において酸化ストレス下でアルギニンから一酸化窒素(NO)が合成されること、またNOが細胞の酸化ストレス耐性に寄与することを見出しました。さらに、酵母のNO合成に関与するタンパク質として、Tah18を世界に先駆けて同定しました。今回頂いた助成金により本研究を加速させ、NOの合成制御機構や生理機能を明らかにするとともに、得られた基礎的知見を活用し、発酵生産環境における酸化ストレスに強い産業酵母の育種、Tah18などのNO代謝関連酵素を標的とする抗真菌薬の探索などに貢献したいと考えています。 

助成受託研究テーマ 

真菌における一酸化窒素の合成機構・生理的役割の解明

   一酸化窒素(NO)はシグナル分子として血圧調節、感染・炎症など幅広い生命現象に関与し、哺乳類ではアルギニンからNO合成酵素によって生成されます。しかし、高等生物のモデルである酵母Saccharomyces cerevisiaeでは、ゲノム上に哺乳類NO合成酵素のオルソログが存在せず、NOの研究はほとんど進んでいません。また、酵母は種々の発酵生産環境(エタノール、高温、冷凍、乾燥、浸透圧など)において、酸化ストレスに曝され、有用機能(エタノール、炭酸ガス、味・風味成分の生成)が制限されるため、発酵力の向上には酸化ストレス耐性の強化が必要です。一方、病原真菌はヒトに感染する際、種々のストレス(温度、酸素濃度、栄養)に対する耐性を獲得し、感染・病原性を示すことから、NOがこれらの現象に関与する可能性が考えられます。本研究では、酵母に見出したNOのアルギニンからの合成機構と酸化ストレス下における生理的役割、およびNOが産業酵母の発酵力や病原真菌の生理特性に与える影響について解析を行います(一部、千葉大学真菌医学研究センターとの共同研究)。将来的には効率的にNOを合成させることで、様々な産業酵母の育種への応用が期待できます。また、NO合成を特異的に阻害する化合物は抗真菌薬や殺菌剤としての有用性を秘めています。 

関連論文 

R. I. Astuti*, D. Watanabe*, H. Takagi: Nitric oxide signaling and its role in oxidative stress response in Schizosaccharomyces pombe. *These authors contributed equally to this work. Nitric Oxide-Biol. Chem., 52, 29-40 (2016).

R. Nasuno, M. Aitoku, Y. Manago, A. Nishimura, Y. Sasano, H. Takagi: Nitric oxide-mediated antioxidative mechanism in yeast through the activation of the transcription factor Mac1. PLoS One, 9, e113788 (2014).

A. Nishimura, N. Kawahara, H. Takagi: The flavoprotein Tah18-dependent NO synthesis confers high-temperature stress tolerance on yeast cells. Biochem. Biophys. Res. Commun., 430, 137-143 (2013).

Y. Sasano*, Y. Haitani*, K. Hashida, I. Ohtsu, J. Shima, H. Takagi: Enhancement of the proline and nitric oxide synthetic pathway improves fermentation ability under multiple baking-associated stress conditions in industrial baker's yeast. *These authors contributed equally to this work. Microb. Cell Fact., 11:40 doi:10.1186/1475-2859- 11-40 (2012).

【ストレス微生物科学】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/takagi/

(2016年02月15日掲載)

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