NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の河野祐介さん(博士研究員)が「第15回日本NO学会学術集会」において「YIA (Young Investigator Award) 最優秀賞」を受賞

 バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の河野祐介さん(博士研究員)が「第15回日本NO学会学術集会」において「YIA (Young Investigator Award) 最優秀賞」を受賞しました。

受賞のコメント

 「第15回日本NO学会学術集会」において「YIA (Young Investigator Award) 最優秀賞」を受賞することができ光栄に思います。この賞を頂けたのは、日頃から研究を支えていただいている高木博史教授、そして本発表内容を含めて「硫黄の生物学」を切り開き、このグループを牽引している大津厳生助教のおかげであり、厚く御礼を申し上げます。また、本発表は、OBを含めた研究室メンバーであるポスドクの森ヶ崎進博士、秦野智行博士、技術補助員の吉野みほ子さん、井田慶子さん、大学院生のナッタさん(現: BIOTEC)、仲谷豪さん(現:長瀬産業)、佐々木翠さん(現:日本食研)、鈴木茉里奈さん(現:資生堂)、玉越愛さん(現:日本アルシー)、城山真恵加さん(現:シャープ)、舟橋依里さん(現:日本写真印刷)、高橋砂予さん、辰巳恭平君、加知卓磨君、鶴岡愛さん、氏本貴仁君、西口みゆさんらが積み重ねてきた研究成果の一つの形であると感じており、深く感謝いたします。さらに、研究室の皆様や、共同研究を展開させていただいた、慶応大学の末松誠教授のグループ、並びに企業の方々の協力にも深く感謝する次第です。この受賞を励みに、今後さらに研究を発展させて、社会に貢献できるよう努めたいと思います。

第15回日本NO学会学術集会のホームページ
http://square.umin.ac.jp/nosj2015/ 

受賞した発表の内容

『微生物の硫黄同化機構の解明と硫黄分子種による新たな様式のシグナリングおよび細胞内フローの可能性』
河野祐介、鈴木茉里奈、仲谷豪、大津厳生、高木博史


 大腸菌には、よく知られている硫酸イオンからのL-システイン合成経路(硫酸経路)の他に、チオ硫酸イオンからのL-システイン合成経路(チオ硫酸経路)が存在しています。我々は最近、チオ硫酸経路のcysM遺伝子破壊株が、チオ硫酸イオンを単一硫黄源とする培地でも僅かに生育できることを見出しました。このことから、大腸菌にはCysMに依存しない未知の「チオ硫酸同化経路」が存在することが示唆されました。本研究では、この経路に関わる新規の酵素の同定およびその応用を目的としました。
 我々は、このCysM非依存のチオ硫酸同化が、チオ硫酸硫黄転移酵素ファミリーの酵素により触媒される可能性を考え、これらの候補遺伝子をcysM遺伝子破壊株に過剰発現させて生育を調べました。その結果、glpE遺伝子の過剰発現が、cysM遺伝子破壊株の生育を野生株レベルまで回復させることが明らかになりました。また、LC-MS解析による硫黄代謝産物の定量から、細胞内の硫黄フローを予測し、glpEの過剰発現で、この経路の硫黄フローが実際に強まっていることを確認しました。以上から、GlpEは、新たな硫黄同化経路に寄与する酵素であることが明らかになりました。同様に、YeeD遺伝子も、GlpEとはまた別経路で、やはりCysM非依存のチオ硫酸の同化にかかわっていることを明らかにしました。このように、チオ硫酸からのシステイン合成には、我々の想像を超える、様々な経路が存在し、対応する多様な役割を担っていることが分かってきました。
本研究の成果は、未知の部分が多い硫黄代謝の解明や、システインやエルゴチオネインなど有用含硫化合物の工業生産への応用につながると考えています。 

関連する資料

  1. Eri Funahashi, Kyohei Saiki, Kurara Honda, Yuki Sugiura, Yusuke Kawano, Iwao Ohtsu, Daisuke Watanabe, Yukari Wakabayashi, Tetsuya Abe, Tsuyoshi Nakanishi, Makoto Suematsu, Hiroshi Takagi: A finding of thiosulfate pathway for synthesis of organic sulfur compounds in Saccharomyces cerevisiae and an improvement of ethanol production. J. Biosci. Bioeng. (in press)
    : Equal contribution. 
  2. Iwao Ohtsu, Yusuke Kawano, Marina Suzuki, Susumu Morigasaki, Kyohei Saiki, Shunsuke Yamazaki, Gen Nonaka, Hiroshi Takagi: Uptake of L-cystine via an ABC transporter contributes defense of oxidative stress in the L-cysteine export-dependent manner in Escherichia coli. PLoS One, 10(4):e0120619 (2015). 
  3. L-システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌, 大津厳生、河野祐介、高橋砂予、舟橋依里、城山真恵加, 特願2013-183237 PCT/JP2014/072567

【ストレス微生物科学】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/takagi/

(2015年07月07日掲載)

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