ソニック・ヘッジホッグシグナルの濃度勾配による視床下部の小領域の作り分け
Manipulation of signal gradient and transcription factors recapitulates multiple hypothalamic identities.
Maho Yamamoto, Agnes Ong Lee Chen, Takuma Shinozuka, Manabu Shirai, Noriaki Sasai
STEM CELLS (2023) 41, 453–467
概要:視床下部には様々な神経細胞が存在し、それらが小領域を形成していますが、これらを作り分けることに成功しました。この研究成果は、脳の複雑さが生み出されるメカニズムの一端を明らかにしたものとして重要です。
【解説】
脳の中で、視床下部と呼ばれる領域は体重の0.4%程度しかありませんが、ホルモンを分泌することにより、体温や食欲、情動(喜怒哀楽)など、全身状態をコントロールする重要な部分です(図1)。視床下部領域はさらに細分化された小領域に分けることができ、その1つ1つが役割を担うことによって、視床下部の多様な働きが担保されています。これらの小領域は胎生期にできますが、その多様性が生み出されるメカニズムはよくわかっていませんでした。
今回、私たちはマウスES細胞をまず幼弱な視床下部細胞へと分化させ、ここにソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)と呼ばれる分泌タンパク質を濃度依存的に添加しました。すると、視床下部内の各小領域が濃度依存的に出現することが明らかになりました(図2)。さらに、各々の小領域に発現する遺伝子を、ゲノム編集システムを用いて破壊すると、その小領域の細胞ができなくなり、別の小領域に変化することが明らかになりました。逆に、遺伝子を強制的に発現すると、小領域の比率を変更することも明らかになりました。このように、視床下部の小領域が濃度依存的にできること、さらにその細胞数の制御の分子機構が明らかになり、視床下部内で多様な細胞が生み出されるメカニズムの一端が明らかになりました。
学生の皆さんへ
(1) 次の用語を説明できますか。
ホルモン
モルフォゲン:https://bsw3.naist.jp/bsedge/0001.html
ソニック・ヘッジホッグ:
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ソニック・ヘッジホッグ
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/位置情報
(2) 脳における視床下部の機能を説明できますか。