新学術領域研「植物多能性幹細胞」

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研究テーマ - 公募研究班 (H30-H31年度) ー

本領域では植物幹細胞の特性を理解し、その増殖性や多能性の維持に必須な制御システムを解明する。
植物科学分野に幹細胞生物学を創成し、植物生存の永続性や旺盛な繁殖力を分子レベルで理解するための研究基盤を構築する。

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A01:公募研究班 (H30-H31年度)

2段階式シュート再生系における幹細胞の新生と転換

研究代表者 杉山 宗隆 東京大学大学院理学系研究科附属植物園

[研究内容]
植物は、幹細胞の新生や転換を通して、器官を再生することができる。人為的なシュート再生の誘導には、オーキシンを多く含む培地とサイトカイニンを多く含む培地で順次組織片を培養する、2段階法が広く用いられている。最近の知見によれば、この培養系では、まずオーキシンに応じて根端分裂組織(RAM)型幹細胞ニッチをもつカルスが生じ、これがサイトカイニンに応じてシュート頂分裂組織(SAM)型幹細胞ニッチに転換する、と考えられる。私たちはこれまでに、シロイヌナズナの変異体や阻害剤を用いた研究などから、RAM型幹細胞の状態を内生IAAが変化させることや、SAM型幹細胞ニッチへの転換にBTAF1遺伝子のRGD3が関わることを示唆する結果を得ている。これらを踏まえて、本研究では、RGD3と内生IAAの作用を糸口に、2段階式シュート再生における幹細胞の動態と制御機構を解き明かすことを目指す。

植物幹細胞の非対称分裂と細胞周期制御の連関

研究代表者 伊藤 正樹 金沢大学理工研究域

[研究内容]
幹細胞は非対称分裂をすることにより、分化する娘細胞と分裂を続ける幹細胞自体を生み出している。細胞壁を持ち独自に多細胞化した植物では、動物細胞とは全く異なる独自のメカニズムにより、幹細胞の非対称分裂が実現している可能性がある。本研究では、気孔の発生過程における非対称分裂に焦点をあて、異なる細胞運命が2つの娘細胞に振り分けられる未知の仕組みにチャレンジする。これまでに、特定の細胞周期因子の変異や発現の操作により、気孔前駆細胞の分裂パターンや細胞運命決定に特徴的な異常が生じるなど、細胞周期因子と非対称分裂の関連を示唆する複数のケースを見出している。本研究では、これらの観察を出発点として、気孔前駆細胞の非対称分裂における細胞周期制御や細胞運命決定のメカニズムにアプローチする。

気孔幹細胞の極性形成と非対称分裂の仕組みの解明

研究代表者 嶋田 知生 京都大学大学院理学研究科

[研究内容]
2つの異なる細胞を生じる「非対称分裂」は、多様な細胞からなる陸上植物の発生を支える基本的な仕組みである。本研究では、気孔幹細胞の細胞極性の形成から非対称分裂のしくみの解明を目指す。気孔は葉の発生にともなって、原表皮細胞から複数のステップを経て形成される。この過程において、気孔幹細胞は非対称分裂を行い、小さなメリステモイドとより大きなSLGC細胞が形成される。メリステモイド自身も気孔幹細胞であり、さらに非対称分裂を行った後、孔辺母細胞を経て孔辺細胞へと分化する。私たちは気孔幹細胞の非対称分裂をかく乱する低分子化合物Bubblinを同定している。分子遺伝学および生化学的解析を駆使して、Bubblinの作用機序を多面的に調べることにより、気孔幹細胞の極性形成と非対称分裂の仕組みに迫る。

オーキシンによる多能性幹細胞形成機構の解明

研究代表者 西浜 竜一 京都大学大学院生命科学研究科

[研究内容]
陸上植物は、発生初期に新生する幹細胞に依存した3次元形態形成を行う。幹細胞新生には植物ホルモン・オーキシンが関与するが、それがどのような遺伝子発現調節を介して幹細胞を作り出すのかについては明らかになっていない。基部陸上植物苔類ゼニゴケでは、初期胞子発芽体細胞は全細胞種を生み出せる分化全能性状態にあり、葉状体の幹細胞、いわゆる頂端細胞は分化多能性状態にあると言える。これまでの研究から、オーキシン信号伝達経路が頂端細胞形成に必須な役割を果たすことがわかってきた。本研究では、ゼニゴケの特性と遺伝学的手法を駆使することにより、遺伝子発現制御とクロマチン動態に着目して、オーキシンが司る全能性から多能性への移行機構を解明する。本研究により、陸上植物に保存された幹細胞形成原理が明らかになると期待される。さらに、植物における全能性と多能性について、遺伝子発現とクロマチンレベルでの定義付けを目指す。

細胞壁が制御する幹細胞の運命決定機構の解明

研究代表者 榊原 恵子 立教大学理学部

[研究内容]
植物の器官分化や幹細胞形成・維持には細胞壁の力学的性質の制御が重要性であることが認められるようになってきたが、その仕組みはよくわかっていない。私たちはこれまでにシロイヌナズナの幹細胞形成・維持を制御するWOX 遺伝子のヒメツリガネゴケホモログであるPpWOX13LA及びPpWOX13LB遺伝子が細胞壁の伸展性を制御するβ-エクスパンシンなどの発現促進を介してプロトプラスト再生時の新規幹細胞形成に機能することを報告している。本研究では、β-エクスパンシンなどの細胞壁制御因子による細胞壁の力学的性質の変化がどのように新規幹細胞形成のトリガーとなっているかを明らかにするために、β-エクスパンシンなどを操作して細胞壁の成分や力学的性質の変動と分化状態を転写レベルで測定することによる幹細胞運命決定機構の解明をめざす。

転写因子によるヒストン修飾制御を介した幹細胞新生の分子機構

研究代表者 石川 雅樹 基礎生物学研究所

[研究内容]
陸上植物は、環境に応答して容易に分化細胞をリプログラミングし、幹細胞を新生させることができる。この過程において、ヒストンメチル化などのクロマチン修飾が、分化状態の変化を妨げる障壁として機能するため、分化細胞のクロマチン修飾状態を変化させる必要があると考えられるが、その分子機構は不明である。我々は、ヒメツリガネゴケの幹細胞誘導系を用いて、茎葉体に発現させるだけで葉細胞を幹細胞へと変化させる転写因子STEMIN1を発見した。また、STEMIN1の単独発現によって、直接の標的遺伝子のヒストン修飾変化を介して遺伝子発現を誘導することを見出した。そこで本研究では、STEMIN1によるヒストン修飾変化の分子機構を明らかし、陸上植物の幹細胞新生におけるクロマチン修飾変化を作動させる分子機構の解明を目指す。

非生物ストレスによる幹細胞新生の分子メカニズム

研究代表者 岩瀬 哲 理化学研究所環境資源科学研究センター

[研究内容]
植物はその体内に保持する3つの多能性幹細胞、すなわち茎頂幹細胞、根端幹細胞および維管束幹細胞によって体作りをしている。単離した葉肉プロトプラストから植物体を再生させた歴史的な研究から、植物細胞は一度分化した後でも、全ての幹細胞を新生できることが証明されている。この幹細胞新生の能力は、自然界においてもin vitro環境下でも、非生物ストレス、特に傷害ストレスが引き金になること多いがその分子メカニズムは謎が多い。本研究では、非生物ストレスが種々の転写因子を介してどのように幹細胞を新生するのか、シロイヌナズナを用いてその分子メカニズムを明らかにする。特に傷害ストレス等によって引き起こされる維管束幹細胞新生に着目し、遺伝子発現やヒストン修飾変化をゲノムワイドに捉え、幹細胞新生に必要な遺伝子ネットワークとエピゲノム変化を捉える。これらの解析から浮かび上がる重要因子を単離し、幹細胞新生における役割を遺伝学的手法によって明らかにする。

寄生植物の寄生器官をつくる幹細胞の運命制御機構

研究代表者 吉田 聡子 奈良先端科学技術大学院大学
研究推進機構

[研究内容]
ハマウツボ科寄生植物は、宿主植物からのシグナルを受けて、根の細胞をリプログラミングして寄生器官である吸器を新生する。吸器の先端には分裂活性の高いメリステム組織があり、幹細胞様の細胞群が観察される。この細胞は、宿主植物が近傍にある場合には分裂を持続することで吸器の伸長を促し、宿主に到達すると細長い特殊な形状をした侵入細胞へと運命を変える。私たちは、モデル寄生植物コシオガマから吸器幹細胞の分裂活性の維持と侵入細胞への運命転換に異常を生じた変異体を単離した。本研究では、この変異体の解析を通して、宿主シグナルに依存した吸器幹細胞の運命制御機構を解明する。

 

A02:公募研究班 (H30-H31年度)

コケ植物から解き明かす植物幹細胞に特有の動作原理

研究代表者 藤田 知道 北海道大学大学院理学研究院

[研究内容]
コケ植物ヒメツリガネゴケの原糸体では細胞が露出しており、頂端幹細胞の増殖過程を生きたまま観察することができる。本研究ではこの過程を研究し、植物幹細胞に特有の極性形成や不等分裂制御機構の解明を目指す。このため原糸体頂端幹細胞の不等分裂の鍵となり、液胞や細胞壁などの制御に関わる植物特異的転写因子に着眼しその分子機構を研究する。また環境変化に応じて頂端幹細胞の不等分裂と等分裂が可逆的に切り替わるしくみを植物特有の膜タンパク質に注目し研究する。さらに、原形質連絡を介した位置情報の制御機構と幹細胞の運命変換の関係を研究する。本研究により、植物幹細胞の増殖、維持に重要な植物特有の動作原理の一端が明らかになるものと期待される。

植物幹細胞におけるミトコンドリア超融合とゲノム増幅仮説の検証

研究代表者 有村 慎一 東京大学大学院農学生命科学研究科

[研究内容]
核のDNAは細胞分裂に同調して倍加/二分配を繰り返すが、ミトコンドリアに存在するDNAは複数回の細胞分裂に先立って一斉に増幅して多倍数体化したのちに、連続した分配によってそのミトコンドリアゲノムを伝達させる。その後、分化した末端の体細胞では一ミトコンドリアあたり1/3ゲノム程度にまで減少する(各々は部分ゲノム断片しか持たない)といわれている。最近、植物の幹細胞や再分化過程において、融合した巨大ミトコンドリアの出現が複数報告されている。本研究では、ミトコンドリアの巨大化とゲノムの多倍数体化等の幹細胞に特徴的であると思われる現象を、シロイヌナズナとそのミトコンドリア形態変異体を用いた解析から再確認・検証するとともに、その作動機序や生理的意義を検討する。ミトコンドリアを中心とした細胞生物学的な視点の研究から、植物幹細胞の特性やその制御機構解明への貢献が期待される。

植物幹細胞研究を加速させる植物ホルモンの高分解能検出

研究代表者 北口 哲也 東京工業大学科学技術創成研究院

[研究内容]
植物ホルモンは幹細胞の増殖、維持、分化など植物の成長のあらゆる場面で重要な働きをしている。しかしながら、植物ホルモンそのものを時空間分解能高く検出できるセンサーは少ない。したがって、植物幹細胞における植物ホルモンの濃度分布を検出することができれば、植物生理/発生学を飛躍的に加速させることができる。本研究では、蛍光タンパク質と抗体を融合させるFlashbody技術を利用して、植物ホルモンのセンサーを構築する。この技術は、抗体の分子認識能を用いるため幅広い植物ホルモンに適用でき、遺伝子コード型であるため個体への導入が容易である。最終的には茎頂や根端の幹細胞におけるジベレリン、サイトカイニン、オーキシンなどの植物ホルモンの時空間動態を検出できるセンサーを開発する。

受精・胚発生過程における植物幹細胞の新生と維持の機構解明

研究代表者 武内 秀憲 名古屋大学
トランスフォーマティブ生命分子研究所

[研究内容]
被子植物の有性生殖過程において、卵細胞は精細胞と受精することで増殖・分化能をもつ受精卵となる。体を作る全ての細胞の元になるという点で根源的な幹細胞とも言える受精卵は、動的に分裂・分化することで種子の中で秩序立った胚へと発達する。この受精・胚発生過程ではエピゲノム情報の再編成が行われ、幹細胞性が新生・維持される。本研究では、卵細胞・受精卵・初期胚におけるエピゲノム動態の解析を通じて、受精・胚発生過程にプログラムされた幹細胞新生の機構解明とその操作を目指す。染色体維持装置の形成の中核となるエピジェネティックマークであるヒストンバリアントCENH3の新規積み込みにも着目し、それに関わるタンパク質・エピゲノム情報の同定とライブ解析を行うことで、染色体の正常な維持・機能発現の仕組みを明らかにする。

内鞘細胞幹細胞性原理の解明

研究代表者 柿本 辰男 大阪大学大学院理学研究科

[研究内容]
側根は、内鞘細胞から作られる。シロイヌナズナでは、道管側内鞘細胞(Xylem pole pericycle cell: XPP細胞)はオーキシン濃度の上昇に応答して細胞の分裂を開始し、側根原基を作り出す。XPPはオーキシンに応答した細胞分裂能を維持しているが、側根形成時以外は静止している。XPPシロイヌナズナの根にオーキシンを与えると、内鞘細胞は活発な細胞分裂をするが、それ以外の細胞では全く細胞分裂は誘導されない。側根原基形成の研究は盛んに行われているが、内鞘細胞のみが持つ側根原基形成のコンピテンシーに関する研究はほとんどない。本研究では、XPPの幹細胞としての性質を中心に、XPPのアイデンティティー決定の仕組みを解明することを目的とする。

花幹細胞の終結過程における遺伝子ネットワークの冗長性と協調

研究代表者 伊藤 寿朗 奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科

[研究内容]
植物は種子を形成するために、花において旺盛な幹細胞の増殖活性を自ら停止し、生殖器官を分化させる。本研究では、これまでの単一変異体の解析では見落とされていた遺伝子機能を多重変異体の活用により分子遺伝学的に解明することを主目的の1つとする。2つ目にわれわれの見いだした花発生の初期と中期でオーキシンによる幹細胞増殖への作用が逆転するというパラドックスの分子基盤を理解する。3つ目に多段階におよぶ複数経路によってもたらされる環境変動に対する頑強性を理解する。これらの解析をとおしてシロイヌナズナの花幹細胞の終結過程における、遺伝子ネットワークの冗長性と協調性、さらにそれらによってもたらされる外的栄養、環境変動に対する頑強性の分子基盤を理解することを研究の目的とする。

シュート多能性幹細胞群の永続性を支える茎頂分裂組織の成長パターン制御機構の解析

研究代表者 相田 光宏 熊本大学国際先端科学技術研究機構

[研究内容]
茎頂分裂組織は細胞分裂活性に富んだドーム状の組織であり、中央部にシュート幹細胞群を維持しつつ、周辺部に葉の原基となる細胞群を供給する。きわめて動的な構造である茎頂分裂組織の中で、どのようにシュート幹細胞群が維持されるかはよく分かっていない。本研究ではシュート幹細胞群が維持される場としての茎頂分裂組織に着目し、分裂組織形成のマスター転写因子群CUC1CUC2CUC3の制御下でどのように茎頂分裂組織とシュート幹細胞群が維持されるのかを、CUCとその下流遺伝子群のうち特に組織の成長パターンに強い影響力を持つ二種の遺伝子群(オーキシン関連遺伝子群とKNOX遺伝子群)の機能解析から明らかにする。この研究により、茎頂分裂組織に特有な水平方向の成長パターンがいかにして確立し維持されるか、またそれが幹細胞の維持改定にどの様な役割を持つのかが明らかにできる。

植物の栄養繁殖をモデルとした再生と幹細胞性の維持機構の解明

研究代表者 木村 成介 京都産業大学総合生命科学部

[研究内容]
北米の湖畔に生育するアブラナ科植物のRorippa aquaticaは、ちぎれた葉の根元側(基部側)の断面から不定芽を形成することで無性的に繁殖する。この一連の過程には特別な条件は必要なく、水分状況さえ適切であれば、葉の切断に応答して植物体が再生する。これは、葉の一部の細胞が幹細胞性を維持しており、切断などの外的刺激に応答して幹細胞の増殖が再開するからであると考えられる。R. aquaticaは、シロイヌナズナと近縁であるなど実験材料としての多くの利点がある。そこで、本研究では、R. aquaticaの葉の断片からの再生をモデルとして、植物の再生や多能性幹細胞の維持・増殖のメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目指す。

イネの茎における節幹細胞の特徴づけと細胞未分化性消失機構の解明

研究代表者 津田 勝利 国立遺伝学研究所

[研究内容]
幹細胞性の確立に不可欠な要素として、細胞未分化性の維持と消失がある。KNOX転写因子は茎頂や花などの幹細胞の未分化性維持に重要である一方、器官分化に伴い発現が抑制される。本研究ではイネの茎頂分裂組織から茎への分化過程に着目し、KNOXの機能抑制機構を明らかにする。またKNOXは茎頂や花の幹細胞に加え、節間を生み出す介在分裂組織(intercalary meristem: IM)の維持に不可欠な役割を果たすが、IMにおける幹細胞の有無は未解明である。そこで、野生型とKNOXの機能欠損変異体を材料としたトランスクリプトーム解析によりIMの遺伝子発現マップ作成し、節幹細胞の存在の検証とその特徴づけをおこなう。本研究により、植物地上部幹細胞の未分化性維持とその消失をつかさどる分子メカニズムが明らかになると期待される。

茎頂幹細胞におけるゲノムの安定性と可塑性に関する研究

研究代表者 遠藤 真咲 農業・食品産業技術総合研究機構

[研究内容]
正確なゲノム情報を後代に伝えるためには、茎頂幹細胞における変異は抑制することが好ましい。一方、環境の変化に対応するには、適度に遺伝情報が異なる腋芽等の新生組織や後代を作出してゲノムの多様性を確保することが有効な生存戦略であるともいえる。また、人工制限酵素等を用いてDNA二重鎖切断を導入し、修復のエラーを利用して標的遺伝子を改変するゲノム編集においては、新生組織や後代に遺伝情報が受け継がれる茎頂幹細胞において効率的に変異を誘発することが重要となってくる。本研究では植物の生存戦略、人為的なゲノム編集作物の作出にとって重要な茎頂幹細胞のDNA損傷応答を詳細に解析することで、幹細胞性の維持機構および、遺伝的多様性につながるゲノムの可塑性を明らかにする。