研究テーマ2

環境適応や作物育種の基盤となる有性生殖の制御系と進化


画像をクリックして拡大
有性生殖は子孫に多様性を生み出し、進化の基盤となるシステムです。有性生殖を行うためには、雌雄で異なる生殖器を分化させ、卵や精子といった生殖細胞を作る必要があります。植物の有性生殖システムはどのように進化し、どのような遺伝的制御を受けているのでしょうか?
 
 動物の生殖細胞は、減数分裂で生じた娘細胞から直接分化します。一方、植物では、減数分裂で生じた娘細胞は半数体のまま多細胞化して「配偶体」を作り、これらの中に生殖細胞が作られます。シロイヌナズナを始めとした種子植物の配偶体は、わずか3細胞からなる花粉や、7細胞からなる胚嚢(はいのう)に退縮しています。種子植物の生活環は進化の「派生状態」であり、コケ植物のように配偶体が複雑な個体を作るのが元の姿です。植物の有性生殖の真実を知るには、配偶体世代を調べる必要があります。
 
画像をクリックして拡大
植物が生殖細胞を作る仕組みはほとんど分かっていませんが、それは種子植物をモデルにしていたためです。種子植物の生殖細胞は観察が難しく、また生殖細胞を作れない変異株を維持できません。モデルコケ植物のゼニゴケを使うことで、この問題を解決できることに気が付きました。ゼニゴケは植物体がすなわち配偶体であり、生殖細胞の形成過程を容易に観察することができます。また無性生殖により生殖細胞を作れない変異株を維持することができます。
 
画像をクリックして拡大
例えば、陸上植物のゲノムに必ず存在しながら、長らく機能が分からなかった RKDという遺伝子があります。RKD遺伝子は、その発現パターンから卵形成への関与が示唆されていましたが、シロイヌナズナでの実証は困難でした。私たちはゼニゴケの RKD遺伝子が卵や精子の前駆細胞で特異的に発現していることを見出し、さらにノックアウト株の解析から、この遺伝子が生殖細胞形成のマスター制御因子であることを示しました。
 
画像をクリックして拡大
また、種子植物の胚嚢(メスの配偶体)形成には3つのMYB転写因子が機能することが知られていました。私たちは胚嚢を持たないゼニゴケにも相同な MYB遺伝子が1つ存在し、この遺伝子のノックアウト株の形態がメスからオスへと転換することを発見しました。つまりこのMYB転写因子は、陸上植物の進化を通じて保存された、メス分化のマスター制御因子であることが明らかとなりました。またオス個体では、このMYB遺伝子の逆鎖からタンパク質をコードしないRNAが転写されており、これが表側のMYB遺伝子の発現を抑制していることが分かりました。
 
このように、シロイヌナズナとゼニゴケを比較することで、陸上植物に共通した有性生殖の制御遺伝子を明らかにすることが出来ます。現在は、これらの転写因子に制御される遺伝子群の機能を解析することで、性形態の分化や生殖細胞形成の実体を明らかにしようとしています。

本研究テーマは、以下の研究費の支援を受けて行っています。

  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究A (中島、郷)23H00377, FY2023-2026
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 若手研究 (久永)25K18488, FY2025-2026
  • 日本学術振興会 国際共同研究加速基金(国際先導研究) (久永(分担)) 22K21352, FY2022-2028