PROJECT2

土壌環境のセンサー機能を担う根冠組織の発生と分化制御


 
 
根冠(Root cap)は根の先端を覆うキャップ状の組織であり、植物と土壌環境のフロントラインを構成しています。根冠は根端メリステムの物理的な保護に加え、重力方向の感受、摩擦の低減、栄養や水分といった土壌環境の受容など、植物の成長に必須の重要な機能を担っています。根冠を構成する細胞群は、最内層での細胞新生と最外層での自律的な細胞剥離により一定の周期でターンオーバーするユニークな動態を示します。根冠細胞は根の成長を支えるのみならず、剥離した細胞が土壌中に散布されることで、土壌環境を整えたり、大気中の炭素を土壌へと還流する役割を担っています。

 
私たちは根冠分化のマスター制御因子であるSMB/BRN転写因子を起点として、根冠の形成や働きに関与していると思われる60個の遺伝子を見つけました。これら遺伝子は細胞壁に作用する酵素や、脂質合成酵素、分泌関連因子などをコードしていました。まず細胞壁の主成分の1つであるペクチンの分解酵素をコードすることが予想されたRCPG遺伝子に着目しました。ライブイメージングによる観察の結果、最外層の根冠細胞において、RCPGタンパク質の発現が急激に上昇し、その後に根冠細胞が剥離することを見出しました。またRCPGの機能を欠く変異体では、細胞層の剥離が完結せず根端に残ったままになることが明らかとなりました。これにより、根冠最外層におけるRCPGの周期的な活性化が、根冠細胞の自律的かつ周期的な剥離に機能することが明らかになりました。

根冠中央部のコルメラは、内側の細胞は重力感受細胞として機能し、最外層の細胞は分泌細胞として機能します。同じコルメラ細胞であっても両者の細胞内の構造は大きく異なっています。我々はこの構造転換の過程にオートファジーが重要な役割を担っていることを明らかにしました。オートファジーは真核生物に保存された細胞内自己消化機構ですが、植物の組織形成に果たす役割はほとんど分かっていませんでした。これは植物の発生過程におけるオートファジーの働きを明確に示したのみならず、外界と接する根の先端で絶えず繰り広げられるミクロな変化を明瞭に可視化し、その分子機構を明らかにしたユニークな研究成果です。


 研究成果紹介ビデオ 


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