NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -

二村 圭祐 さん

  • 大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学・准教授
  • 2002年度(修士) 動物分子工学

人間万事塞翁が馬

二村  圭祐さんの近況写真

拡がるNAIST遺伝子の原稿を書く機会を頂き、もう遠い記憶になってよく覚えていないことも多いですが、奈良先端大での記憶を手繰り寄せてみました。私は学部生の頃、ES細胞の未分化性に興味を持っていました。何の細胞にでも分化できるES細胞のポテンシャルに鼻息だけは荒い未熟な自分を重ねていたのかもしれません。当時、山中伸弥先生は独立したばかりでした。研究室のホームページを拝見したところ、ES細胞に特異的に発現している遺伝子(ECAT)の機能を解析するとあり、拡がりがあって面白いのではないかと思い山中研に行くことを決めました。

楽しくも厳しかった修士課程を修了した後、色々な道を模索しましたが、まだ研究への未練が断ち切れず、大阪大学の博士課程に進みました。山中研ではES細胞で特異的に発現するDNAのメチル化酵素(Dnmt3L)を研究していたので、その続きの研究を行って学位を取得しました。この時に作製したDnmt3Lに対する抗体は性能がかなり良く、Millipore社から最近販売されました。

DNAのメチル化の次はヒストンのメチル化をやってみようと考え、新規なヒストンメチル化酵素を同定しました。そのヒストンメチル化酵素WHSC1は4p-症候群の原因遺伝子であることを突き止め、中でも心発生時の転写制御を行っていることを明らかにしました(Nimura K, Nature, 2009)。この研究から心発生における転写制御に興味を持ち、さらに次世代シークエンシングを取り入れて研究を進めたところ、心発生に重要な転写因子が転写開始だけでなく転写終結を制御することも見出しました。

遺伝子発現制御を明らかにするためには、次世代シークエンシングなどの最先端の技術を使ってクロマチンの高次構造を解析する必要があると考え、アメリカはNIHのDr. Rafael Casellasの研究室に留学しました。B細胞の活性化過程をモデルに研究を行い、MYCがダイナミックなクロマチン構造変換を行うことを明らかにしました。帰国後は癌の増悪化に関わる遺伝子発現制御機構を明らかにしようとしています。この研究では、実際の癌患者さんからの新鮮な検体や臨床情報と次世代シークエンシングを組み合わせて、なぜ癌が増悪化するのか、その謎を解き明かそうと臨床の教室から来ている医師の大学院生を始め多くの仲間達と奮闘しています。

振り返って見ると、紆余曲折した研究人生です。それでも周りの先生方に助けられ、新しい生命現象を明らかにしようと日々挑戦しています。

写真の説明:研究室の仲間と。後列右から3番目の青いシャツを着ているのが筆者

【2017年09月掲載】

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