フロリゲンは、葉から茎頂へ移動し花成を誘導する物質として70年前に提唱された分子である。フロリゲンは植物の花成の決定的な因子であり、これをコントロールすることで植物の花成を自由に制御できるとの期待から、長い間実体解明への努力が続けられたが、その正体は謎であった。私たちはイネのHd3aと呼ばれるタンパク質の研究から、Hd3aが葉で合成された後、茎頂へ長距離移動し花成を誘導することを示した(図1)。すなわちHd3aタンパク質が長い間謎であったフロリゲンの分子実体であることを明らかにした。
さらに私たちは、Hd3aが花を咲かせるメカニズムを明らかにする目的で研究を行った。その結果、Hd3aは茎頂メリステムの細胞に到達した後、まず細胞質で14-3-3タンパク質と相互作用したのち、Hd3a-14-3-3複合体の形で核内へ移動することが分かった。Hd3a-14-3-3複合体は核内でbZIP型転写因子OsFD1と転写複合体を形成し、花芽形成遺伝子群の発現を開始させることを示した(図2)。これらの結果から、14-3-3タンパク質はフロリゲンHd3aの細胞内受容体であると考えることができ、Hd3a-14-3-3-OsFD1からなるタンパク質複合体(Florigen Activation Complex, FAC)が花成を促進すると考えられる。
植物の多くは、一日の日長がある時間よりも長いと花成が促進される長日直物と、日長がある時間よりも短いと花成が促進される短日植物に分類できる。長日植物と短日植物は日長への反応性が真逆であるが、これがどのような違いから生じるのかは分かっていなかった。イネを用いた我々の研究から、短日植物のイネも長日植物のシロイヌナズナと同様に3つの鍵となる遺伝子セットが主な開花調節パスウェイに働いていること、また、このパスウェイの一部が制御を逆転させることで、日長への反応を逆にしていることを見いだした(図3)。
フロリゲン(Hd3aタンパク質)がどのように植物体内を長距離移動するのか、また茎頂に到達した後どのように花芽形成をスタートさせるのかを明らかにする解析を行っている。これまでに、Hd3aが複数のタンパク質と複合体を形成して花成を促進することが明らかになってきており、質量分析を利用したプロテオミクス、バイオイメージング、次世代シーケンサー等の先端技術を駆使してフロリゲンが花を咲かせるメカニズムを明らかにする。
フロリゲンは高分子タンパク質であることから、そのまま植物に処理しても細胞膜を透過して作用することはできない。そこで、Hd3aタンパク質に膜透過性を付与し、植物に処理して自由に開花させる研究を行っている。
長日・短日植物のシグナル伝達機構の逆転がどのような制御によって行われているかを分子レベルで明らかにする解析を行っている。
世界中で栽培されているイネは栽培種ごとに多様な開花時期を示す。この多様性の成立様式を分子レベルで明らかにする解析を行っている。