成果報告

論文No.088

シロイヌナズナシンタキシン様タンパク質SYP123とSYP132は根毛の先端成長に関与する

市川美恵、平野朋子、江波和彦、テイラー・フセリアー、加藤直洋、チャン・クォン、ボリス・フォークト、ポール・シュルツ-レファート、フランティセック・バルスカ、佐藤雅彦
Plant Cell Physiol. 55: 790-800 (2014)

Ichikawa, M., Hirano, T., Enami, K., Fuselier, T., Kato, N., Kwon, C., Voigt, B., Schulze-Lefert, P., Baluska, F. and Sato, M.H. (2014) Syntaxin of plant proteins SYP123 and SYP132 mediate root hair tip growth in Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol 55: 790-800.

 根毛は、土中からの水分や無機塩類などの吸収に重要な働きをしている。根毛の先端成長は、根毛の先端への極性を持った小胞輸送によって行われていることが明らかとなっているが、どのようにして根毛先端への極性輸送が行われているかについては不明な点が多い。本論文では、細胞膜に局在するシンタキシン様タンパク質SYP123とSYP132が、根毛の先端成長に関与していることを明らかにした。SYP123は根毛の先端の細胞膜に極性を持って配置する一方、SYP132は、細胞膜に均一に存在するが、両者の根毛の先端成長に関わる機能については不明であった。本論文では、SYP123のT-DNA挿入変異体とSYP132の発現を根毛細胞のみで、エストラジオールを添加することにより一過的に低下させる手法を用いて、SYP123とSYP132の根毛の先端成長における機能を解析した。その結果、両者は局在パターンが全く違うにも関わらず、これらの発現を低下させることによって根毛の成長が著しくに阻害された。また、SYP123は、アクチンの重合阻害剤やエンドサイトーシスやエキソサイトーシスの阻害剤に対して感受性があるが、SYP132は不感受性であることが示された。これらの結果より、SYP123は根毛先端付近の小胞のリサイクリングに関与し、一方、SYP132は新生タンパク質の細胞膜への非極性輸送に関与すると結論した。

Fig. 1

図1 SYP123とSYP132の発現を抑制すると根毛の伸長が阻害される
A.SYP123のタグ挿入変異体syp123-1では、野生型シロイヌナズナ(コロンビア)の根毛に対して、有意に根毛の長さが短くなっている。更に、syp123-1に自己プロモーターの制御下でGFP-SYP123を発現させると短くなった根毛の長さが元通りになる。
B.SYP132の発現を、エストラジオールを添加することにより根毛細胞のみにて、SYP132の人工的マイクロRNAを発現することにより、SYP132の発現を抑制すると根毛の伸長が極度に抑制される。

Fig. 1

図2 根毛の先端成長のおけるSYP123とSYP132に役割に関するモデル
SYP132は、新たに合成された細胞膜タンパク質を、非極性的に、細胞膜上へ輸送する働きをしている。一方、SYP123は、根毛の先端領域において、細胞膜とエンドソームを介したリサイクリング経路において、機能することにより、VAMP72が局在している輸送小胞をアクチン依存的に根毛の先端部分に集合させる役割を担っている。