成果報告

論文No.087

離生細胞間隙形成を制御するE3ユビキチンリガーゼNOPPERABO1

石崎公庸、水谷未耶、嶋村正樹、増田晃秀、西浜竜一、河内孝之
Plant Cell 25: 4075-4084 (2013)

Ishizaki, K., Mizutani, M., Shimamura, M., Masuda, A., Nishihama, R. and Kohchi, T. (2013) Essential role of the E3 ubiquitin ligase NOPPERABO1 in schizogenous intercellular space formation in the liverwort Marchantia polymorpha. Plant Cell 25: 4075-4084.

 大気中の二酸化炭素を利用して光合成の炭素固定反応を行う植物にとって、植物 組織の内部に空間(細胞間隙)を確保することは重要である。接着している細胞 同士が乖離することで形成される細胞間隙を離生細胞間隙と呼ぶが、その発生の 分子メカニズムについてはほとんど知見がない。本論文では、基部陸上植物のモデルである苔類ゼニゴケの突然変異体を利用して離生細胞間隙形成制御の仕組みの一端を明らかにした。
 nopperabo1 (nop1)変異体はゼニゴケの細胞間隙である気室および気室孔が形成されないため、表面が滑らかな葉状体を形成する(図1)。nop1変異体の表現型を詳細に解析すると、葉状体先端部において離生細胞間隙の形成が全く起こらないことが明らかとなった。さらに分子遺伝学および生化学的解析をすすめ、この突然変異の原因となった遺伝子NOPPERABO1(NOP1)がコードするタンパク質が、細胞膜付近に局在し、特異的なタンパク質分解を行うPUB-ARM型のE3-リガーゼであることを同定した。つまり、特異的タンパク質分解(ユビキチン-プロテアソーム系)が植物の離生細胞間隙の形成を促進することを突き止めた。今回、ゼニゴケから発見したNOP1に近いPUB-ARM型のE3ユビキチンリガーゼは、陸上植物に広く保存されている。この仕組みを更に深く解明すれば、細胞間隙の形成頻度や大きさを制御して、光合成能力が改良できる可能性もある。また、この研究は新興モデル生物の苔類ゼニゴケにおいて、変異体から原因遺伝子を同定した順遺伝学研究の初めての報告例としても評価された。

Fig. 1

図1 ゼニゴケの気室とnop1の表現型
上段:ゼニゴケは葉状体の背側(上面)に形成される気室。その中央に気室孔をもつ。
下段:nopperabo1(nop1)変異体の表現型(右)。野生型に見られる気室がまったく形成されない。