成果報告

論文No.078

表皮で合成される極長鎖脂肪酸は細胞増殖を抑えることにより植物器官の成長を制御する

信澤岳、奥島葉子、永田典子、小嶋美紀子、榊原均、梅田正明
PLoS Biol. 11(4), e1001531 (2013)

Nobusawa, T., Okushima, Y., Nagata, N., Kojima, M., Sakakibara, H. and Umeda, M. (2013) Synthesis of very-long-chain fatty acids in the epidermis controls plant organ growth by restricting cell proliferation. PLoS Biol. 11(4): e1001531

 極長鎖脂肪酸(VLCFA)は、植物体表面を覆うクチクラワックスの構成成分として重要である。シロイヌナズナのPAS2遺伝子はVLCFA合成酵素の1つをコードしており、その変異体は重篤な成長阻害の表現型を示す。しかし、PAS2は表皮特異的に発現することから、その表現型をクチクラ形成だけで説明するのは困難であった。そこで、まずpas2変異体とVLCFA合成阻害剤を用いてシュートの表現型を観察したところ、VLCFA含量の低下により茎頂や葉、胚軸の内側組織で細胞増殖が活性化することが明らかになった。また、pas2の表現型は表皮特異的にPAS2を発現させることにより抑圧されることも示された。そこでさらに解析を進めたところ、VLCFA含量が低下すると維管束におけるサイトカイニン合成が上昇し、その結果として細胞分裂が亢進することが明らかになった。その証拠に、維管束特異的にサイトカイニン分解酵素遺伝子を発現させたところ、細胞分裂亢進の表現型が抑圧された。以上の結果から、植物は表皮で合成されるVLCFA由来のシグナル分子を維管束に向けて送り、維管束におけるサイトカイニン合成を一定レベルで抑えることにより過度な細胞増殖が起こるのを防いでいると考えられる(図1)。VLCFA合成を弱く阻害すると葉が大きくなることから、この制御は植物器官のサイズを一定に保つ機構として重要であると考えられる。

Fig. 1

図1 極長鎖脂肪酸による細胞増殖の制御
表皮で合成される極長鎖脂肪酸由来のシグナル分子は、細胞非自律的に維管束に働き、そこでのサイトカイニン合成を抑制している。その結果、過度な細胞増殖が抑えられ、器官サイズが一定に保たれる。つまり、表皮(表面)と維管束(軸)の間のシグナルのやり取りにより、植物は器官成長を制御していると考えられる。