成果報告

論文No.077

シロイヌナズナではATMによるSOG1のリン酸化がDNA損傷応答に必須である

愿山郁、小林純也、荻田伸夫、植田美那子、木村成介、真木壽治、梅田正明
EMBO Rep. 14, 817-822 (2013)

Yoshiyama, K.O., Kobayashi, J., Ogita, N., Ueda, M., Kimura, S., Maki, H. and Umeda, M. (2013) ATM-mediated phosphorylation of SOG1 is essential for the DNA damage response in Arabidopsis. EMBO Rep. 14: 817-822

 細胞内のDNAは、環境ストレスにより生成される活性酸素や紫外線などにより損傷を受けている。また、通常のDNA複製の過程でもDNA損傷は起こる。したがって、DNA損傷に応答して細胞周期を停止させ損傷を修復する機構は、生物種を問わず必須なものである。植物には動物がもっている多くのDNA損傷応答関連因子が存在しないが、2009年にSOG1というNAC型転写因子がDNA損傷応答のマスター因子として報告された。そこで、SOG1の機能制御について解析したところ、DNA二本鎖切断に応答してリン酸化制御を受けることが明らかになった。図1のバンドcがDNA損傷に応答して生じる高リン酸化型のSOG1である。また、DNA損傷のセンサーキナーゼであるATMがSOG1をリン酸化する活性をもつことも示された。SOG1のC末端側にはATMの標的となり得るSQモチーフが5箇所存在するため、それらを非リン酸化型に置換した変異型SOG1を作成しsog1変異体に導入したところ、ATMによるリン酸化制御を受けなくなること、またDNA損傷応答が起きなくなることが明らかになった。以上の結果から、ATMによるSOG1のリン酸化がDNA損傷応答に必須であることが示された。このような性質はDNA損傷チェックポイントに働く動物のp53と似ているが、SOG1とのアミノ酸配列の相同性は見られず、DNA損傷応答の進化的変遷を考える上で興味深い。

Fig. 1

図1 SOG1のリン酸化によるバンドシフト
ガンマ線処理(50 Gy)したシロイヌナズナ植物体からタンパク質を抽出し、イムノブロッティングによりSOG1のリン酸化状態を調べた。バンドaは非リン酸化型SOG1、バンドbはDNA損傷非依存的なリン酸化SOG1、バンドcはDNA損傷依存的に高リン酸化SOG1を示す。