成果報告

論文No.076

シロイヌナズナにおけるエネルギー利用と個体成長に対するオートファジーの寄与

泉正範、日出間純、牧野周、石田宏幸
Plant Physiol. 161, 1682-1693 (2013)

Izumi, M., Hidema, J., Makino, A. and Ishida, H. (2013) Autophagy contributes to nighttime energy availability for growth in Arabidopsis. Plant Physiol. 161: 1682-1693

 植物が生存・成長するためのエネルギー生産は、環境変化によって劇的に変動すると考えられる。葉緑体タンパク質は、細胞内自己分解システム・オートファジーにより小胞Rubisco-containing body(RCB)を介して液胞に輸送・分解され、その形成は夜間のエネルギー源となるデンプンが少ない葉ほど活性化する。しかし植物のエネルギー代謝におけるオートファジーの役割は明らかでなかった。オートファジー欠損変異体(atg5-1)を異なる日長下で栽培すると、夜が長い短日条件ほど顕著な成長遅延を示した(図1A)。さらに、呼吸基質となるデンプンが蓄積せず、夜間のエネルギー利用が強く阻害されるスターチレス変異体(pgm-1, adg1-1)とオートファジーの二重変異体(pgm-1 atg5-1, adg1-1 atg5-1)は、短日条件でさらなる成長遅延を示し、かつ葉が早期に枯死した(図1A)。夜のない連続光下では、各変異体は野生体と同様に成長した(図1B)。短日条件において代謝物解析を行うと、スターチレス変異体では遊離アミノ酸が増加しており、スターチレス・オートファジー二重変異体では分岐鎖アミノ酸や芳香族アミノ酸の増加が抑制されていた。以上の結果から、オートファジーがRCBを主とするタンパク質分解からデンプンに代わる呼吸基質となるアミノ酸を供給することで、夜間のエネルギー利用に寄与することが明らかとなった。

Fig. 1

図1 異なる日長におけるオートファジー、デンプン代謝変異体の成育
A, 短日条件下(10時間明期/14時間暗期、播種後40日)ではオートファジー欠損変異体(atg5-1)は成長が遅延し、さらにデンプン蓄積が不能となる二重変異体(pgm-1 atg5-1, adg1-1 atg5-1)は葉が早期に枯死した。B, 連続光条件下(24時間明期、播種後23日)では、いずれの変異体も野生体と同様に成長した。