成果報告

論文No.068

シロイヌナズナCopia様レトロトランスポゾンONSENの世代を超えた転移における熱誘導効果とsiRNA生合成経路

松永航、小林啓恵、加藤敦之、伊藤秀臣
Plant Cell Physiol. 53, 824-833. (2012)

Matsunaga, W., Kobayashi, A., Kato, A. and Ito, H. The effects of heat induction and the siRNA biogenesis pathway on the transgenerational transposition of ONSEN, a copia-like retratransposon in Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol. 53: 824-833. (2012)

 環境ストレスは植物に遺伝的、エピジェネティックな影響を与える。我々は、シロイヌナズナに高温ストレスを与えると活性化し、ある環境条件では転移の観察されるレトロトランスポゾンを用いて、その温度感受性や反復ストレスに対する転移頻度などを調査した。その結果、37℃付近に活性の閾値が存在することを明らかにした。また、シロイヌナズナのsiRNA合成経路に重要な働きを担う遺伝子の変異体を用いた実験から、siRNAがトランスポゾンの転移制御に重要な働きをしていることを明らかにした。この変異体に高温ストレスを与えると次世代でトランスポゾンの転移が観察されたが、転写活性はなくなっていることが分かった。さらに脱分化細胞を用いた実験から未分化細胞では分化した細胞とは異なるトランスポゾンの活性制御が存在することが示唆された。

Fig. 1

図1  AとB. 2世代高温ストレスを与えたシロイヌナズナ個体の子孫集団におけるサザン解析。
A. 野生型 B. siRNA合成経路の変異体 (nrpd1). トランスポゾンONSEN配列をプローブに用いた。変異体では多くの新しい転移が起きコピー数が増加しているのがわかる。 C. 高温ストレス後のトランスポゾンの転写活性解析。高温ストレスを2世代目に1度与えたもの(PS2)と2世代連続で与えたもの(PMS)の子孫およびストレスを与えた直後の当代(HS)での転写量。PNC: ストレス処理なしのコントロール。ストレスを与えた子孫ではトランスポゾン活性はなくなっていることがわかる。野生型、変異体共に世代を超えた転写活性は確認されず、変異体では毎世代高温ストレスを与えることで転移が繰り返される。