成果報告

論文No.056

苔類ゼニゴケにおける細胞膜H+-ATPaseの同定と機能解析

奥村将樹、井上晋一郎、高橋宏二、石崎公庸、河内孝之、木下俊則
Plant Physiol. 159, 826-834 (2012)

Okumura, M., Inoue, S., Takahashi, K., Ishizaki, K., Kohchi, T. and Kinoshita, T. (2012) Characterization of the plasma membrane H+-ATPase in the liverwort Marchantia polymorpha. Plant Physiol. 159: 826-834

 細胞膜H+-ATPaseは、ATPの加水分解エネルギーを利用し、細胞外へのH+の能動輸送を行う植物に必須の一次輸送体である。これまでの研究から、維管束植物において、H+-ATPaseの活性化にはC末端から2番目のThrのリン酸化と、リン酸化部位への14-3-3タンパク質の結合が重要であることが明らかとなっている。しかし、C末端から2番目にThrをもつpT H+-ATPase(penultimate Thr-containing H+-ATPase)が進化上どの段階から出現したのかは明らかになっていなかった。  本論文では、陸上植物の進化的基部に位置する苔類ゼニゴケにおけるH+-ATPaseの同定と機能解析を行った。その結果、ゼニゴケにはpT H+-ATPaseとnon-pT H+-ATPaseの両方が存在しており、pT H+-ATPaseは維管束植物と同様のC末端のリン酸化を介した制御が行われていることが明らかとなった。このことは、植物が陸上へ進出する過程でpT H+-ATPaseを獲得したことを示唆している(図1)。さらに、様々な生理シグナルの解析を進めた結果、ゼニゴケのpT H+-ATPaseは光合成に依存して顕著にリン酸化されることを初めて見出し、葉緑体から細胞膜へのシグナル伝達が存在することが明らかとなった(図2)。現在、この反応の生理的な意義について解析を進めている。なお、本研究は公募班員石崎との共同研究として進めました。

Fig. 1

図1 緑色植物の系統関係とH+-ATPaseの進化
藻類はnon-pT H+-ATPaseのみを持ち、維管束植物はpT H+-ATPaseのみを持つ。本研究により、苔類ゼニゴケでは、両タイプのH+-ATPaseを持つことが明らかとなり、植物が陸上へ進出する過程でpT H+-ATPaseが出現したことが示唆された。

Fig. 2

図2 ゼニゴケ葉状体における白色光によるpT H+-ATPaseのリン酸化
ゼニゴケ葉状体に白色光照射を行うと、光合成に依存してpT H+-ATPaseが顕著にリン酸化されることが明らかとなった。