成果報告
論文No.055
シロイヌナズナの胚軸伸長は、オーキシンによる細胞膜H+-ATPaseのリン酸化を介した活性化により引き起こされる
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高橋宏二、林謙一郎、木下俊則
- Plant Physiol. 159, 632-641 (2012)
Takahashi, K., Hayashi, K. and Kinoshita T. (2012) Auxin activates the plasma membrane H+-ATPase by phosphorylation during hypocotyl elongation in Arabidopsis thaliana. Plant Physiol. 159: 632-641
植物幼茎は、短い時間で著しく伸長生長します(図1A)。この現象は、植物ホルモン・オーキシンが細胞体積を増大させることによって引き起こされます。オーキシンによる植物の伸長生長誘導の初期過程は、「酸成長説」で説明されています。つまり、オーキシンは細胞からの水素イオン放出を促進することで、細胞壁を酸性化し、細胞壁のゆるみを引き起こし、さらに細胞膜の過分極を引き起こすことで、K+in channelを介したK+の取り込みを促し、細胞への水流入と細胞体積の増大を誘導します(図2)。しかしながら、オーキシンがどのようにして細胞膜を介した水素イオン放出を引き起こしているのか、これまで明らかになっていませんでした。
本研究では、シロイヌナズナの黄化芽生えから単離した胚軸切片を用いて、オーキシンによる伸長生長の詳細な解析を進めました。その結果、胚軸切片にオーキシンを与えると、伸長生長の促進に先立って細胞膜H+-ATPaseがリン酸化により活性化され、オーキシン誘導性伸長生長においてH+-ATPaseが必須の働きを担っていることを発見しました(図1B, 2)。また、オーキシンによるH+-ATPaseのリン酸化は、オーキシン受容体TIR1を介さないことも明らかとなり、新規のオーキシン受容体やシグナル伝達経路が存在することが示唆されました。
なお、本成果は、中日新聞5月1日付け朝刊において紹介されました。
図1(A)シロイヌナズナ黄化芽生え(もやし)の伸長生長。黄化芽生えの伸長生長は、胚軸を構成する細胞の体積が増大することによって起きる。この現象は、植物ホルモン・オーキシンの代表的な生理作用のひとつである。(B)内生オーキシンを枯渇させた胚軸切片にオーキシン(10 μM インドール3-酢酸)を処理し、細胞膜H+-ATPaseのリン酸化レベルの経時変化をanti-pThr947抗体を用いたイムノブロット法で解析した。バンドのシグナル強度を定量化しプロットしたグラフから、リン酸化レベルは胚軸伸長誘導に5分ほど先行して上昇することがわかる。