成果報告

論文No.030

コンデンシンIIはDNA損傷を軽減し、シロイヌナズナのホウ素過剰耐性に必須である

坂本 卓也、乾(辻本)弥生、浦口 晋平、吉積 毅、松永 幸大、松井 南、梅田 正明、福井 希一、藤原 徹
Plant Cell in press(doi:10.1105/tpc.111.086314)

Sakamoto, T., Tsujimoto Inui, Y., Uraguchi, S., Yoshizumi, T., Matsunaga, S., Mastui, M., Umeda, M., Fukui, K., and Fujiwara, T. Plant Cell in press(doi:10.1105/tpc.111.086314)

 ホウ素過剰ストレスで根の生育が著しく阻害されるhigh-sensitivity to excess boron (heb)変異株の解析を通じて染色体タンパク質のホウ素過剰ストレス耐性における役割を明らかにしました。heb1およびheb2はそれぞれコンデンシンIIと呼ばれるタンパク質複合体の異なる構成因子をコードしていました。heb1およびheb2は、野生型株と比べると、DNA損傷を起こす試薬によって根の著しい生育阻害を示す(図1)ことに加え、通常の栽培条件でもDNAが多く損傷していることが分かりました。このことは植物のコンデンシンIIにもDNA損傷修復あるいはDNA損傷を防ぐ機能があることを示唆しています。そこでホウ素過剰ストレスがDNA損傷を引き起こすか調べたとところ、野生型株でもheb1およびheb2でもホウ素過剰ストレスによってDNA損傷が増えることが分かりました。さらにホウ素過剰ストレスによるDNA損傷の程度は野生型株と比較してheb1およびheb2でより大きいことが分かりました。これらのことから、コンデンシンIIによるDNA損傷の緩和作用が植物の根におけるホウ素過剰ストレスの軽減に必要であることが明らかになりました(図2)。 コンデンシンIIは動物でも広く保存されています。過剰なホウ素は生物一般に広く毒性です。本研究によって生物の環境突破力の一端を明らかにしました。

Fig. 1

図1 コンデンシンII変異株のホウ素過剰ストレス感受性
野生型株(Col-0)とコンデンシンII変異株(heb1-1およびheb2-1)を通常濃度のホウ素を含む培地(上)と高濃度のホウ素を含む培地(下)で2週間育てて生育を観察した。コンデンシンII変異株は根の長さは、通常培地においても野生型株より短いが、高濃度ホウ素培地では著しく短くなる(A)。培地中のホウ素濃度が1mMを超えるとコンデンシンII変異株はホウ素ストレスに対して感受性を示す(B)。

Fig. 2

図2 植物の根におけるホウ素過剰ストレスの分子機構
ホウ素過剰が引き起こすDNA損傷が根の生育阻害の大きな要因である。コンデンシンIIはDNA損傷を軽減させる作用があり、植物がホウ素過剰ストレスに耐えるために欠くことのできない因子である。