成果報告

論文No.029

植物ホウ素輸送体のmRNAの蓄積はmRNA安定性によって制御されている

田中真幸、高野 順平、千葉由佳子、Fabien Lombardo 、小笠原由貴、尾之内 均、内藤 哲、藤原 徹
Plant Cell in press(doi:10.1105/tpc.111.088351)

Tanaka, M., Takano, J., Chiba, Y., Lombardo, F., Ogasawara, Y., Onouchi, H., Naito, S. and Fujiwara, T. Plant Cell in press(doi:10.1105/tpc.111.088351)

 ホウ素は植物の生育に必須な微量元素です。NIP5;1はホウ素欠乏条件においてホウ素を土壌から吸収するために必須な遺伝子であり、ホウ素欠乏条件ではホウ素十分条件に比べてNIP5;1のmRNAの蓄積は約10倍上昇します。 本研究では、ホウ素に応答したNIP5;1のmRNAの蓄積は、mRNAの分解によって制御されていることを発見しました。ホウ素が十分に存在する条件では、mRNAが素早く分解され、NIP5;1mRNAは蓄積できなく、ホウ素が低濃度に存在する条件では、mRNAは分解されず、NIP5;1mRNAは蓄積します。このmRNAの分解を制御している領域が5'非翻訳領域内に存在していました。NIP5;1の5'非翻訳領域を持たない形質転換植物はホウ素過剰条件でも、mRNAが分解されず蓄積し続けるため(図1)、植物はホウ素を過剰に取り込み、結果として成長が抑制されました(図2)。 植物は土壌中のホウ素濃度の変化に対応してホウ素を効率的に吸収、あるいは抑制するように調節しなければなりません。様々な土壌中のホウ素濃度環境に適応するため、mRNA分解による制御が行われていると推察されます。本研究は、植物の栄養輸送体における5'非翻訳領域を介したmRNA分解の制御メカニズムを初めて示しましたもので、環境突破力の理解に大きく貢献できると考えています。

Fig. 1

図1 5'非翻訳領域がNIP5;1の高ホウ素濃度に応答した発現に与える影響
NIP5;1 5'UTRをGFP-NIP5;1遺伝子と連結したもの、あるいは連結しないものをNIP5;1プロモーター制御下で発現させたシロイヌナズナ形質転換体の根のGFP 蛍光を観察した。 NIP5;1 5'UTRを持っていないと、ホウ素過剰条件(1000 μM B)でもGFP蛍光は消えない。

Fig. 2

図2 5'非翻訳領域が植物の成長に与える影響
図1の形質転換植物を用いて、過剰ホウ素条件(3000 μM B)における、成長を観察した。 NIP5;1 5'UTRを持った形質転換植物は、野生型、NIP5;1の欠損株(nip5;1-1)と比較して、その成長に違いは見られない。一方、 NIP5;1 5'UTRを持たない形質転換植物は、野生型、 NIP5;1の欠損株と比較して、明らかに成長が抑制されている。