成果報告
論文No.028
フロリゲンFTによる気孔開口調節
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木下俊則、小野奈津子、林優紀、森本小百合、中村英、曽田翠、加藤由麻、大西真人、中野雄司、井上晋一郎、島崎研一郎
- Curr. Biol. 21, 1232-1238 (2011)
Kinoshita, T., Ono, N., Hayashi, Y., Morimoto, S., Nakamura, S., Soda, M., Kato, Y., Ohnishi, M., Nakano, T., Inoue, S. and Shimazaki, K. Curr. Biol. 21: 1232-1238 (2011)
植物の表皮に存在する気孔は、一対の孔辺細胞により構成される孔で、光合成に必要な二酸化炭素の取り込み、蒸散や酸素の放出など、植物と大気間のガス交換を担っている。気孔は、植物が光合成を盛んに行う太陽光下、特にシグナルとして作用する青色光により開口する。本論文では、青色光による気孔開口が見られず、気孔が閉じた表現型を示すphot1 phot2 二重変異体に対し、さらに変異処理を行い、気孔が顕著に開口した突然変異体の単離を試みた。単離した変異体scs1-1について詳細な解析を進めた結果、興味深いことに、scs1-1の気孔において、フロリゲンFlowering locus T (FT)の発現が顕著に高まっていることを見出した。そこで、孔辺細胞にFTタンパク質を過剰発現させたところ、気孔は大きく開き、FTの機能欠損変異体では気孔開口が抑制されていることが明らかとなった(図1)。 フロリゲンとしてのFT働きは、日長に応じて葉で作られ、葉脈(維管束)の師管を通って茎頂に移動し、転写因子と結合することで花芽形成を誘導していることが、2007年に証明された。しかし、花芽誘導は植物にとって栄養成長から生殖成長に切り替わる非常に大きなイベントであるにも関わらず、花芽誘導以外の機能はほとんど知られていなかった。本結果は、植物は花を咲かせる時、同時に気孔開口を促進し、光合成活性を高めることによって、花芽誘導や種子の成熟を促進していることを示唆しており、植物の花成時におけるFTの重要な機能の発見となった。
図1 FTによる気孔開口の促進
(図A)モデル植物シロイヌナズナの気孔孔辺細胞に緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質としてFTを過剰発現させると気孔は異常に開口するが、機能を欠損した変異型FTを過剰発現させても気孔開口は誘導されない。左は明視野像、右は蛍光像(緑:GFP蛍光、赤:クロロフィル蛍光)。バーは5 μm、Nは核を示す。
(図B)植物におけるFTの働きの概念図。FTは、日長に応じて葉の維管束で発現し、師管を通って茎頂に移動し、花芽形成を誘導するのみならず、気孔孔辺細胞においても発現し、気孔開口を促進する働きを持つ。