成果報告

論文No.026

都築朋、高橋宏二、井上晋一郎、沖垣由季子、富山将和、Hossain M.A、島崎研一郎、村田芳行、木下俊則

シロイヌナズナのMg-キラターゼHサブユニットは気孔孔辺細胞におけるABAシグナル伝達に関与するが、ABA受容体そのものではない
J. Plant Res. 124, 527-538 (2011)

Tsuzuki, T., Takahashi, K., Inoue, S., Okigaki, Y., Tomiyama, M., Hossain, M.A., Shimazaki, K., Murata, Y. and Kinoshita, T. J. Plant Res. 124: 527-538 (2011)

 本論文では、気孔開度に依存した葉の重量変動を指標に、気孔開度変異体のスクリーニングを行い、野生株と比べ重量変動の大きい新奇変異体rtl1 (rapid transpiration in detached leaves 1)を単離した。解析の結果、この変異体は気孔閉鎖を引き起こす植物ホルモン・アブシジン酸(ABA)存在下でも気孔が閉鎖しないABA非感受性の表現型を示し、Mg-キラターゼHサブユニット(CHLH)のミスセンス変異が原因となっていることが明らかとなった。  CHLHは、クロロフィル生合成に関わるMg-キラターゼのサブユニットの一つであり、近年ABA受容体としても機能することが報告されていた(Nature 2006)。しかしながら、本当にABA受容体として機能しているかどうか、また、ABAシグナル伝達に関与しているのかどうかについては、依然多くの議論がなされていた。そこで、組換えCHLHを用いた詳細なABA結合実験を行った結果、CHLHはABAと特異的に結合しないことが明らかとなった。一方、CHLHは細胞外のCa2+濃度を上昇させるとABAに応答した気孔閉鎖を示すことを見出し、CHLHは孔辺細胞 [Ca2+]cytの制御を介してABAシグナル伝達に関与していることが示唆された。以上の結果より、CHLHは気孔のABAシグナル伝達には関与するが、ABA受容体そのものとしては機能していないと結論し、これまで混沌としていたCHLHのABAシグナル伝達における役割が明確となった。なお、本成果は、カバーページに採用された。

Fig. 1

図1 rtl1変異体の表現型
rtl1変異体は、ペールグリーン及び弱い矮性の表現型を示した(上の写真)。rtl1変異体は、暗所下でも野生株より気孔が開口しており、光照射とともにABA処理を行っても、気孔開口阻害が見られない(下グラフ)。

Fig. 2

図2 孔辺細胞におけるABAシグナル伝達経路のモデル図
孔辺細胞においてABA受容体PYR/PYL/RCARにABAが受容されると、PP2C(プロテイン・ホスファターゼ)が阻害され、SnRK2(プロテイン・キナーゼ)が活性化され、Ca2+の濃度変化等を経て、気孔が閉鎖する。CHLHは葉緑体に局在し、孔辺細胞 [Ca2+]cytの制御を介してABAシグナル伝達に関与している可能性が考えられる。