成果報告

論文No.025

新規なNADH依存性グルタミン酸合成酵素2の破壊はイネの種子数を顕著に減少させる

田村亘、小島創一、豊川絢子、渡邉英生、小林(田渕)真由美、早川俊彦、山谷知行
Front. Plant Nutr. 2:57 (2011)

Tamura, W., Kojima, S., Toyokawa, A., Watanabe, H., Tabuchi-Kobayashi, M., Hayakawa, T. and Yamaya, T. (2011) Disruption of a novel NADH-glutamate synthase2 gene caused marked reduction in spikelet number of rice. Front. Plant Nutr. 2:57.

 アンモニウムは、グルタミン合成酵素(GS)とグルタミン酸合成酵素(GOGAT)によって、グルタミンやグルタミン酸へと変換される。イネは電子供与体の異なる二つのGOGATを持ち、それぞれFd-GOGATとNADH-GOGATと呼ばれている。近年のゲノムプロジェクトの成果により、NADH-GOGATは1型と2型の二つがあることが明らかとなった。NADH-GOGAT2は成熟葉や葉鞘で比較的高く発現することが知られていたが、その生理学的な役割については不明であった。本論文は、Tos17の挿入によって、NADH-GOGAT2の機能が不全となった変異体と野生型を比較することで、NADH-GOGAT2の欠失が植物のバイオマスを減少させるのみならず、米の収量を大幅に減少させることを解明した。米の収量構成要素を検討したところ、変異体では、野生型と比較して、穂の数は変わらないけれども、一つの穂につく小穂の数が減少することが判明した。この収量構成要素の表現型は、穂の数と小穂の数が共に減少するNADH-GOGAT1の変異体とは異なった。プロモーター解析の結果から、NADH-GOGAT2は成熟ないし老化した葉の維管束で、窒素の転流に寄与し、NADH-GOGAT1やFd-GOGATでは補うことができないユニークな機能を担うことが判明した。

Fig. 1

図1 NADH-GOGAT2の表現型
新しく単離されたNADH-GOGAT2の変異体では、NADH-GOGAT1やFd-GOGATなどの他のGOGAT分子族が発現しているにもかかわらず、バイオマス量と収量が減少してしまう。

Fig. 2

図2 NADH-GOGA2の発現部位
NADH-GOGAT2のプロモーター領域をGUS遺伝子に連結した融合遺伝子を形質転換したイネでは、成熟葉や老化葉のGUS活性が維管束組織の中でもとりわけ、篩部の伴細胞や篩部の柔細胞で強く検出された。NADH-GOGAT2が窒素転流に関わっているのかもしれない。