成果報告

論文No.024

シロイヌナズナのNIMA関連キナーゼ4,5,6は相互作用し、表皮細胞の伸長生長において重要な表層微小管の構造を制御する

本瀬宏康、濱田隆宏、吉本香織、村田隆、長谷部光泰、渡辺雄一郎、橋本隆、酒井達也、高橋卓
Plant J. 67, 993-1005 (2011)

Motose, H., Hamada, T., Yoshimoto, K., Murata, T., Hasebe, M., Watanabe, Y., Hashimoto, T., Sakai, T. and Takahashi, T. Plant J. 67: 993-1005 (2011)

 植物の茎や葉柄は細長い形態をしているが、これは茎や葉柄を構成する個々の細胞が縦に長くのびる(伸長生長)ためと考えられる。この細胞が縦長に伸長するメカニズムとはどのようなものだろうか?これまでの研究から、細胞膜直下に存在する表層微小管が伸長方向と垂直に配向し、たがとして働くと考えられているが、表層微小管の制御機構は不明のままだった。我々は、NIMA関連キナーゼ(NEK)というタンパク質をリン酸化する酵素が表層微小管を制御し、表皮細胞の伸長を調節することを見出した。シロイヌナズナのNIMA関連キナーゼ6(NEK6)の変異体では、表皮細胞が異常な伸長を行い、突起が形成される。NEK6の機能がなくなると、表層微小管が過剰に安定化し、うずまき状の異常な微小管構造を示す。NEK6は微小管上でダイナミックな移動を示し、微小管の構成要素であるチューブリンタンパク質をリン酸化して、表層微小管の構造を制御することが示された。また、NEK6はNEK4, NEK5と相互作用することで表皮細胞の伸長を制御することもわかった。本研究は、植物のNEKがお互いに相互作用し、チューブリンのリン酸化を介して微小管の過剰な安定化を防ぎ、細胞の伸長生長を制御することを初めて示した。NEKはヒトや麹菌・酵母などにも存在し、主に細胞分裂を制御するが、植物のNEKは細胞伸長という新たな機能を獲得し、植物の成長と生存に重要な役割を果たしていると考えられる。

Fig. 1

図1 野生型とnek6変異体(上):nek6変異体では、NEK6の機能が欠失するため、表皮細胞が異所的な伸長を行い、突起が形成される。
nek6変異体の表層微小管(下):nek6変異体では微小管が過剰に安定化し、うずまき状の異常な微小管構造が観察される(上2つの細胞と、左下の細胞)。

Fig. 2

図2 NIMA関連キナーゼ6(NEK6)はNEK6自身や、他のNIMA関連キナーゼ(NEK4, 5)と2量体を形成し、活性化する。活性化したNIMA関連キナーゼはβ-チューブリン4,6(TUB4, 6)のリン酸化を介して、表層微小管の過剰な安定化を抑制し、細胞の伸長生長を制御する。