成果報告

論文No.022

S-アデノシルメチオニンによるシロイヌナズナCGS1遺伝子の翻訳停止において新生ペプチドはリボソームの出口トンネル内で縮む

尾上典之、山下由衣、長尾信宏、デレックB.後藤、尾之内均、内藤哲
J. Biol. Chem. 286, 14903-14912 (2011)

Onoue, N., Yamashita, Y., Nagao, N., Goto, D.B., Onouchi, H. and Naito, S. J. Biol. Chem. 286: 14903-14912 (2011)

 遺伝子発現の転写後制御は,細胞内外の環境に敏速に応答する方策となる。高等植物におけるメチオニン生合成の鍵段階を触媒するシスタチオニンγ-シンターゼをコードするCGS1遺伝子の発現は,メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(AdoMet)に応答した翻訳停止と,これと共役したmRNA分解により制御される。この制御には「MTO1領域」と名付けたCGS1遺伝子コード領域のN末端近傍の十数アミノ酸の配列がシス配列として機能し,MTO1領域内にアミノ酸置換を持つmto1変異株は遊離メチオニンを過剰に蓄積する。本研究では,リボソームによる細胞内の代謝環境の検知機構を探るため,試験管内翻訳系を用いた解析を行い,AdoMet存在下では新たに合成されたCGS1ペプチドがリボソーム内で「縮んだ」コンフォメーションを取ることを見いだした。このコンフォメーション変化はAdoMetに応答した翻訳停止と強く連関しており,AdoMet非存在下,あるいはmto1変異を持つmRNAでは起こらない。なお,この論文はJ. Biol. Chem.誌のトップ1%の論文と評価され,"Papers of the Week"に選ばれた。

Fig. 1

図1 リボソームによる細胞内代謝環境の検知システム
AdoMet存在下でCGS1 mRNAを翻訳すると,シス配列であるMTO1領域を翻訳した直後のSer-94で翻訳が一時停止する。この時,MTO1領域を含むCGS1新生ペプチドは,リボソームの出口トンネル内で縮んだコンフォメーションを取っている。翻訳停止が起こらない条件では,そのようなコンフォメーション変化は起こらない。