成果報告

論文No.021

イネの洪水における異なる2つの生存戦略
エチレン情報伝達を介した洪水耐性機構

永井啓祐、服部洋子、芦苅基行
化学と生物 49, 222-224 (2011)

Nagai, K., Hattori, Y. and Ashikari, M. (2011)  化学と生物 49: 222-224

 水は生物にとって生きていく上で不可欠な要素であり、特に移動することのできない植物にとって河川や湖畔などの水辺に生息地を拡大することは水分の確保という意味では大変重要である。しかし、このような地域に進出した植物は豪雨や長雨による洪水により溺死してしまうリスクを常に負わなければならない。一般的に、洪水には2種類がある。1つは東南アジアのモンスーン地帯にみられる深水洪水(deepwater flood) であり、雨季における長期間の降雨によって広範囲にわたり長期間続く。一方、冠水洪水(flash flood)と呼ばれる洪水は一時的な豪雨による短期間の洪水であり、水深も深水洪水に比べて浅い。イネの中にはこのような異なる2つの洪水にそれぞれ適応したものがあり、これらは異なる2つの生存戦略を獲得した。

Fig. 1

図1 深水耐性イネと冠水耐性イネの耐性メカニズムの概念図
非深水耐性イネはSNORKEL1、SNORKEL2が欠失しているためGA応答による伸長が起こらない(A)。深水耐性イネではエチレンの蓄積によりSNORKEL1、SNORKEL2が発現し、GAの合成または情報伝達を正に制御することで伸長を誘導する(B)。非冠水耐性イネは冠水条件下で葉を伸長させる際にエネルギーを消費するため、洪水が引いた後に生長を再開させるための十分なエネルギーを得ることができず枯死する(C)。 冠水耐性イネは冠水条件下でSub1AがSLR1、SLRL1を蓄積させることにより伸長を阻害し、エネルギー消費を抑制するため、洪水後に蓄積したエネルギーを使い生長を再開できる(D)。