成果報告

論文No.019

イネの深水に対する適応

服部洋子、永井啓祐、芦苅基行
Curr. Opin. Plant Biol. 14, 100-105 (2011)

Hattori, Y., Nagai, K and Ashikari, M. (2011) Rice growth adapting to deepwater. Curr. Opin. Plant Biol. 14: 100-105

 洪水には2種類がある。1つは東南アジアのモンスーン地帯にみられる深水洪水(deepwater flood) であり、雨季における長期間の降雨によって広範囲にわたり長期間続く。一方、冠水洪水(flash flood)と呼ばれる洪水は一時的な豪雨による短期間の洪水であり、水深も深水洪水に比べて浅い。イネの中にはこのような異なる2つの洪水にそれぞれ適応したものがあり、これらは異なる2つの生存戦略を獲得した。深水洪水地帯では数mの洪水が数ヶ月にわたり続くため、この期間は通常の作物栽培は困難である(1)。しかし、浮イネと呼ばれるイネは水位の上昇に伴って劇的な節間伸長を行う。この急激な節間伸長により葉を水面に出すことで呼吸を確保し、深水条件による酸欠状態を回避している。通常の栽培イネが節間伸長できず溺死してしまうのに対して、浮イネは節間伸長をすることにより深水条件でも生存できるように環境適応をした深水耐性イネである。一方、深水洪水とは異なるタイプの洪水である冠水洪水(flash flood)と呼ばれる浅く短期間の洪水は一時的な豪雨などにより突如発生する。この洪水がイネの幼苗期に起こると、冠水したイネは葉を伸長させ酸欠状態になることを回避する。しかし、その伸長にはエネルギー消費を伴うため、水が引いた後に生長を再開させるための十分なエネルギーを得ることができず、しおれて枯死してしまう。この冠水洪水に適応した冠水耐性イネは、冠水条件下でのエネルギー消費を抑え発育抑制をすることで2週間程度にわたる冠水条件下でも生き残り、洪水が引いた後に蓄積していたエネルギーを使い生長を再開する。

Fig. 1

図1 イネのFlash-flood耐性とDeep-water耐性機構