成果報告

論文No.016

エチレン応答における遺伝子発現制御

服部洋子、芦苅基行
植物のシグナル伝達−分子と応答− 共立出版 126-132 (2010)

Hattori,Y and Ashikari,M (2010)
植物のシグナル伝達−分子と応答− 共立出版 126-132

 エチレンは植物ホルモンの中で唯一のガス状ホルモンである。アルケンのなかでもC2H4という最も単純な構造を持つエチレンは、果実の成熟を促進することから成熟ホルモンとも呼ばれるが、それ以外に植物の発生から花の性決定、老化に至るまでの多くの重要な生理的プロセスを制御している1)。これらの過程は、内的な刺激によって時間的・空間的に厳密に制御されて生成されたエチレンに依存しており、植物が正常な生育を行うために重要であると考えられている。エチレンは他に、外的な刺激によっても生成される。外的刺激によって生成されるエチレンはストレスホルモンとしても知られており、乾燥・冠水・塩害・傷害・オゾンなど様々な環境ストレスや病原体の感染などに応答しておこる生態防御機構の重要なシグナル伝達因子であると考えられている。また、エチレンはサイトカイニンやオーキシン、ジベレリンといった他の植物ホルモンやグルコース、光などとクロストークをしていると考えられており、それら他の因子とともに複雑に制御されている。本稿では、これまでに明らかとなったエチレンシグナル伝達経路について概説するとともに、最近明らかとなった新たなエチレンの作用について紹介したい。

Fig. 1

図1 最近のエチレンシグナル伝達経路モデル
(a) エチレン非存在下では、小胞体に局在するエチレン受容体がCTR1を活性化しており、活性化CTR1は下流のEIN2およびMKK9の機能を抑制する。また、未知のMAPKカスケードを活性化してEIN3の592番目のスレオニンをリン酸化する。リン酸化されたEIN3はSCFEBF1/2複合体のターゲットとなり、ユビキチン化され26Sプロテアソーム系によって分解されるため、エチレンシグナルは抑制される。(b)エチレン存在下では、エチレンが受容体に結合することで受容体が不活化し、それによってCTR1も不活化する。そのため、未知のMAPKカスケードへのシグナルが解除されるとともに、EIN2およびMKK9への抑制も解除される。その結果、EIN2からのシグナルやMKK9, MPK3/6カスケードによってEIN3の174番目のスレオニンがリン酸化されることでEIN3が安定化する。EIN3はERFのプロモータ上にあるEBSに二量体を形成して結合し、ERFの転写を誘導する。ERFはさらにGCCボックスを持つエチレン応答遺伝子に結合して、その転写を制御することでエチレン応答が起こる。