成果報告
論文No.007
比較メタボロミクスによるシロイヌナズナに対する遺伝型依存性メチオニン蓄積の影響についての解明
- 草野都、福島敦史、Redestig Henning、小林誠、大槻瞳、尾之内均、内藤哲、平井優美、斎藤和季
- Amino acids 39, 1013-1021 (2010)
Kusano, M., Fukushima, A., Redestig, H., Kobayashi, M., Otsuki, H., Onouchi, H., Naito, S., Hirai, M. Y. and Saito, K. (2010) Comparative metabolomics charts the impact of genotype-dependent methionine accumulation in Arabidopsis thaliana. Amino acids 39: 1013-1021
メチオニン(Met)は生物の必須アミノ酸の一つである。Met生合成経路の制御機構は非常に複雑であり、その重要さが知られていながらも、詳細については未だ不明である。シロイヌナズナの代謝機構において、Metの蓄積がどのような影響を与えるのかを調べるため、我々は3種類のMet過剰蓄積株(mto)変異体に対し、ガスクロマトグラフ―質量分析計によるメタボロミクス解析を行った。3種類のmto変異株(mto1, mto2, および mto3)を用いた多変量解析の結果、これらはそれぞれ判別可能な代謝物プロファイルを示すことが明らかとなった。さらに、OPLSDA(Orthogonal projection to latent structures-discriminant analysis)により、それぞれの変異株の分離に寄与する代謝物群を見つけ出すことができた。mto1におけるMet過剰蓄積はアスパラギン酸ファミリー以外の代謝経路にはそれほど顕著な影響を与えないが、mto2およびmto3内でのMet過剰蓄積は他の代謝経路に属する代謝物量変化に影響することが判明した。このうち、両変異株に共通で変化した代謝経路はポリアミン生合成経路であった。このように、我々のアプローチは代謝経路におけるMet蓄積量の影響を可視化できるだけでなく、植物内での代謝制御に関わる重要な生合成経路を見出す手掛かりを与えることができる手法である。
図1 シロイヌナズナにおけるMet蓄積に伴う代謝影響の度合いに関する概略図
黒色の実線矢印は2種類の代謝物の1段階反応経路を示し、点線矢印は多段階反応経路を表す。
A. mto1変異により影響を受ける代謝物経路を赤色の四角で示した。
B. mto2変異体では、アスパラギン酸ファミリー(Asp)、グルタミン酸ファミリー(Glu)およびポリアミン生合成経路が影響を受ける(灰色四角)。
C. mto3ではMet関連経路と同様に、Gluからポリアミンまでの生合成経路が影響を受ける(黄色四角)。OPH O-phosphohomoserine, dSAM decarboxylated S-adenosyl-methionine
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