成果報告

論文No.003

逆遺伝学的な手法によるイネNADH依存性グルタミン酸合成酵素1の生理学的な機能解明

田村亘、日高佑典、田渕真由美、小島創一、早川俊彦、佐藤雅志、小原実広、小嶋美紀子、榊原均、山谷知行
Amino Acids 39, 1003-1012 (2010)

Tamura, W., Hidaka, Y., Tabuchi, M., Kojima, S., Hayakawa, T., Sato, T., Obara, M., Kojima, M., Sakakibara, H. and Yamaya, T.(2010) Reverse genetics approach to characterize a function of NADH-glutamate synthase1 in rice plants. Amino Acids 39: 1003-1012

 還元的な土壌である水田で生育するイネは、無機態窒素のアンモニウムを好んで吸収し、その生育に利用している。アンモニウムイオンは、グルタミン合成酵素(GS)とグルタミン酸合成酵素(GOGAT)によって同化される。イネゲノムには、NADH依存性GOGATが二分子とFe依存性GOGATFd-GOGATが一分子コードされている。今までに逆遺伝学的な解析から、Fd-GOGATが、葉身の葉緑体で光呼吸の際に放出されるアンモニウムの再同化を行っていることが明らかにされていた。NADH-GOGATについては、特異抗体やプロモーターレポーター解析から、未成熟な葉身や登熟中の頴果などの組織で、維管束組織の細胞群に分布することが明らかにされていた。しかし、NADH-GOGAT1とNADH-GOGAT2がそれぞれイネの窒素代謝にどのような影響を持っているかという点については、明らかにされてこなかった。私たちは、NADH-GOGAT1を欠損する変異イネを単離した。その結果、NADH-GOGAT1は、幼植物期に根でアンモニウムの初期同化に重要であるばかりか、水田で栽培した場合、有効分げつの形成にも重要であることが分かった。NADH-GOGAT1は、イネの収量に大きなインパクトを与える遺伝子であった。

Fig. 1

図1 NADH-GOGAT1はアンモニウムの同化に重要な遺伝子である
様々な濃度の窒素栄養を野生型イネと変異体へ与えたところ、水耕液のアンモニウム濃度が上昇すると、NADH-GOGAT1を欠損するイネで生育が不全となった。窒素が含まれていない水耕液や、窒素栄養として硝酸態窒素を含む水耕液で生育させた場合は顕著な違いが観察されなかったことから、NADH-GOGAT1のアンモニウム同化への寄与が確認された。

Fig. 2

図2 NADH-GOGAT1はイネの生産性に重要な遺伝子である
水田で野生型イネとNADH-GOGAT1欠損イネを栽培したところ、NADH-GOGAT1を欠損するイネの収量が減少していた。収量構成要素を詳細に解析したところ、欠損変異イネでは、野生型と比較して、玄米重に変化が見られないのに対して、穂数と籾数が顕著に減少することが明らかとなった。


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