研究成果

研究成果

DNAに傷が入った時に働く植物独自の遺伝子群を解明
~ 病原菌の感染など環境のストレスに強い農作物の作出に期待 ~

DNAに傷が入った時に働く植物独自の遺伝子群を解明
~ 病原菌の感染など環境のストレスに強い農作物の作出に期待 ~

【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:横矢 直和)バイオサイエンス研究科 植物成長制御研究室の梅田正明教授、高橋直紀助教らは、植物体内でDNAが損傷すると、遺伝子の活性を調節するタンパク質が146個の遺伝子を制御して、細胞分裂を停止させたり、DNAを修復したりすることを明らかにした。動物にも似た働きをもつタンパク質が存在し、細胞のガン化を抑制しているが、調節している遺伝子群は植物とはかなり異なることが示された。また、植物に病原菌が感染すると、このタンパク質を活性化して様々な遺伝子を制御して、病原菌に対する抵抗性を持たせることを発見した。本研究により、DNA損傷に対する植物独自の応答のしくみを明らかにするとともに、病原菌に対する植物の巧妙な防御戦略を裏付けた。

 植物のDNAに傷が入ると、植物にのみ存在するSOG1と呼ばれるタンパク質が活性化することで成長を停止し、様々な応答反応が引き起こされることが知られていた。しかし、このときに、SOG1がどのような遺伝子を制御しているかについては未解明であった。梅田教授、高橋助教らは、モデル植物のシロイヌナズナを用いてSOG1が制御する146個の遺伝子を同定し、それらが細胞分裂の制御、DNAの修復、病原菌に対する防御応答などさまざまな反応に関わっていることを突き止めた。

 本研究により、遺伝情報であるDNAが傷ついた時に、植物がどのようにDNAを修復し、自身の成長を最適に制御しているか、その詳細な仕組みが明らかとなった。今後は、SOG1の機能を改変することで、紫外線によるDNA損傷や病原菌の感染などに耐える強い農作物の作出が期待される。

この研究成果は、平成30年2月11日付けでThe Plant Journal誌オンラインサイトに掲載された。

高橋直紀助教のコメント

 私達は、植物のDNA損傷に対する応答機構の研究を行ってきました。そて、今回の研究により、DNA損傷に対して、植物は動物とは異なる独自の応答機構を持つことを明らかにしました。本研究の成果は、DNA損傷に対する植物独自の生存戦略の仕組みの理解に加え、分子メカニズムの解明に大きく貢献出来たと考えています。この研究は、荻田伸夫さんらが中心となり解析を進めた成果になります。


  (梅田教授)                   (高橋助教)

【解説】

図1 SOG1はDNA損傷に応答して146個の遺伝子の発現を活性化し、様々な反応に関わる

 動物では、細胞内のDNAが損傷を受けると、p53タンパク質という転写因子が活性化し、様々な遺伝子の発現を制御することにより、DNAに変異が入ったままの細胞が増殖するのを防いでいる。その結果、ガン化が抑制される。一方、植物はp53を持っておらず、代わりに、植物にのみ存在するSOG1という転写因子がDNA損傷に応じて活性化され、成長を停止させる。しかし、SOG1がどのような遺伝子をターゲットに制御することでDNA損傷に対処しているかは、これまでほとんど明らかにされていなかった。

 梅田教授、高橋助教らは、シロイヌナズナを用いて、DNAに傷を受けた時にSOG1がどのような遺伝子の発現を制御しているのかを網羅的に調べた。その結果、SOG1は、146個の遺伝子の発現を活性化していることを発見し、それらが細胞分裂を抑える働きを持つ遺伝子や、DNAの修復に関わる遺伝子であることを突き止めた(図1)。動物のp53も、細胞分裂を抑制する遺伝子の発現を調節していることから、細胞分裂の制御において、同様の役割を果たしていることが考えられた。また、驚いたことには、SOG1は植物病原菌が感染した時の防御応答に関わる遺伝子の発現も誘導することがわかった。そこで、SOG1遺伝子が壊れたシロイヌナズナの変異体に病原菌を感染させたところ、野生型の植物よりも病原菌が拡がる様子が観察された(図2)。


図2 sog1変異体では病害抵抗性が低下することで、病原菌の感染が広がりやすくなる

 以前の研究で、病原菌が感染するとDNAに傷が入ることが報告されている。こうしたことから、今回の結果は、病原菌感染によりDNA損傷が起きるとSOG1が活性化され、遺伝子発現の制御を介して、病原菌に対する防御応答が引き起こされることを意味している。

 

 

【本研究の意義】

 今回の研究により、植物体内でDNAが損傷すると、SOG1が、細胞分裂の制御やDNAの修復のみならず、病原菌に対する防御応答も引き起こすことが明らかになった。酸性土壌でアルミニウムが溶け出すと、植物の根においてDNAに傷が入ることが知られている。また、病原菌感染もDNA損傷を引き起こすことが知られている。このような環境要因は、DNA損傷を引き起こすことによりSOG1を活性化して成長を抑制していると考えられることから、今後は、SOG1の機能を改変することにより、様々なストレスに曝されても成長が阻害されないなど、環境変動に対して頑強な農作物の作出が期待される。

【用語解説】

●DNA損傷:DNA損傷は通常の細胞活動の中でも絶えず起きている。さらに、紫外線、放射線、活性酸素、病原菌感染、重金属などの外的ストレスによっても、植物はDNAに損傷を受けることが知られている。
●転写因子:特定のDNA配列を認識し、遺伝子の発現を制御する働きをもつタンパク質である。遺伝子の転写を活性化もしくは抑制することで、遺伝子の発現量を調節する。
●植物病原菌:植物に感染して発病させる。植物に病気を起こす病原菌として、細菌、糸状菌、ファイトプラズマ、ウイルスなどがある。

【共同研究者】

●岐阜大学 応用生物科学部 生産環境科学課程 山本 義治 教授
●奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 西條 雄介 准教授

研究室紹介ホームページ: http://bsw3.naist.jp/courses/courses105.html
研究室ホームページ: http://bsw3.naist.jp/umeda/

(2018年02月21日掲載)

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