NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

IgAの腸内細菌に対する反応性の低下が加齢に伴う腸内菌叢の変動に関係

IgAの腸内細菌に対する反応性の低下が加齢に伴う腸内菌叢の変動に関係

【概要】

森永乳業は、IgA(免疫グロブリン A)の腸内細菌に対する反応性と加齢に伴う腸内菌叢の変動との関係について、奈良先端科学技術大学院大学 新藏礼子教授と共同研究を行い、評価いたしました。

【研究の背景と目的】

森永乳業は、育児用ミルクを開発する過程で赤ちゃんの腸内フローラに着目し、腸内フローラ研究をおよそ50年前から行っています。2016年5月に論文公開された当社の基礎研究結果*1では、日本人の各年代における健常者の腸内細菌叢バランスを明らかにし、60~70歳代以降にビフィズス菌の減少や大腸菌等の増加が顕著であることを確認しましたが、その変動原因はいまだ明らかにされていません。

一方で、腸管に存在する免疫機能もまた加齢に伴い変化し、抗原特異的な免疫グロブリンの反応も加齢で減衰することが知られています。中でも腸内環境においてIgAは主要な抗体のひとつであり、腸内細菌に結合し、有害菌の排除など腸内細菌を制御する上で重要な役割を担っていると考えられています。しかし、加齢に伴うIgAの量および反応性の変化の有無と、腸内細菌の変化との関係性については、十分な研究が行われてきませんでした。

そこで、今回、奈良先端科学技術大学院大学新藏礼子教授との共同研究にて、IgAの腸内細菌への反応性の低下が、加齢に伴う腸内細菌の変動に関与していることを明らかにしました。

なお、本研究成果(Decreased Taxon-Specific IgA Response in Relation to the Changes of Gut Microbiota Composition in the Elderly)は、オンライン科学雑誌『Frontiers in Microbiology』(9月12日付)に掲載されました。

【研究の方法】

30代の健常成人と70歳以上の健常高齢者それぞれ20名より糞便を提供していただき、次世代シーケンサーにより腸内細菌構成を解析いたしました。また、糞便中のIgA濃度*2、IgA結合細菌の割合*3、並びに個別の細菌群に対するIgAの反応性の指標(IgA-index)*4を算出し、健常成人と健常高齢者におけるIgAの腸内細菌に対する反応性を比較いたしました。

【結果の概要】

1.成人と高齢者の腸内細菌叢比較
健常成人と比較し、健常高齢者の腸内菌叢はビフィズス菌の属するBifidobacteriaceae(ビフィドバクテリアッセ)の割合が有意に低く、病原性や炎症を引き起こす細菌群が属しているClostridiaceae(クロストリジアッセ)とEnterobacteriaceae(エンテロバクテリアッセ)の割合は有意に高いことを確認しました(図1)。

図1 健常成人と健常高齢者における各細菌科の占有率(**は有意差あり)

2.糞便中IgA濃度とIgA結合細菌の割合
一方で、糞便中のIgA濃度およびIgAが結合している腸内細菌の割合には有意な差が認められず、腸内IgAの量的な変動および腸内細菌全体に対する反応性の変化はありませんでした(図2)。

図2 健常成人と健常高齢者における糞便中IgA濃度とIgA結合細菌の割合(N.S. 有意差なし)

3.各細菌に対するIgAの反応性
個別の細菌群に対するIgAの反応性を評価したところ、健常高齢者で占有率の高かったClostridiaceaeとEnterobacteriaceaeに対するIgAの反応性指標(IgA-index)は、健常成人と比較して有意に低い値を示すことが明らかとなりました(図3)。

図3 健常成人と健常高齢者におけるIgAの各細菌科に対する反応性
(IgA indexが高いほどIgAと結合している細菌の割合が高いことを示す。**は有意差あり)

以上のことから、高齢者の腸内では一部の細菌に対するIgAの反応性が低下し、その結果それらの細菌がIgAにより制御されずに増殖しやすい状況である可能性が示されました。

これまでにも、IgAは善玉菌と悪玉菌の構成を制御するという知見が報告されております*5。今回の試験結果から、加齢に伴う腸内細菌の変動には、このIgAが少なからず関与していると考えられます(図4)。

 

図4 健常成人と健常高齢者における腸内細菌バランスとIgA反応性の違い(イメージ図)

加齢に伴い変化する腸内細菌は、老年期特有の疾病とも関係すると考えられていますので、今回得られた試験結果は、これら疾患予防に繋がることも期待されます。

*1 BMC Microbiol. 2016 May 25;16:90.
*2 ELISA法による測定
*3 フローサイトメトリーによる算出
*4 セルソーターと次世代シーケンサーを組み合わせて算出、IgA indexが高いほどIgAと結合している細菌の割合が高いことを示す。
*5 Nat Microbiol. 2016 Jul 4;1(9):16103

【用語説明】

●IgA:免疫グロブリンA(IgA)は分子量約17万の糖蛋白で、唾液や消化管分泌液、乳汁などに分泌型として存在し、病原性細菌の排除など重要な役割を担う。
●次世代シーケンサー:近年の科学領域において非常に多く用いられている装置。シーケンサーはDNAやRNAの配列を解析することが可能な装置であるが、次世代シーケンサーは従来の装置に比べて飛躍的に多くの配列を解析することが可能であり、複雑な腸内細菌の遺伝子配列などを網羅的に解析することが可能となる。

【掲載論文】

(1) Title : Decreased Taxon-Specific IgA Response in Relation to the Changes of Gut Microbiota Composition in the Elderly.
(2) DOI : https://doi.org/10.3389/fmicb.2017.01757
(3)書誌情報 : Sugahara H, Okai S, Odamaki T, Wong CB, Kato K, Mitsuyama E, Xiao J-Z and Shinkura R; Front. Microbiol. 8:1757, 12 September 2017.

(2017年09月25日掲載)

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