NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

生物時計の調節メカニズムを解明~生物の環境適応戦略の解明に期待~

遺伝子発現制御学研究室の別所康全教授、博士後期課程学生の金雄、松井貴輝助教のグループと神経形態形成学研究室の作村諭一特任准教授のグループは、マウスをモデル系として、実験生物学と数理生物学の融合研究によって、せきつい動物の形づくりを制御する生物時計の調節機構を明らかにしました。この研究成果は7月27日にMolecular Biology of the Cell誌(米国細胞生物学会誌)の速報版に掲載され、日経産業新聞、科学新聞に記事として掲載されました。
プレスリリース詳細(大学HP http://www.naist/ 内コンテンツ)

別所康全教授のコメント

 博士課程学生の金雄君が、ノックアウトマウスの作製からその解析に至るまで、全ての過程をやり通した研究です。このノックアウトマウスは野生型と比べてせきつい骨の数が2個だけ少ないのですが、金君はすばらしい注意深さと粘り強さを発揮して、ふつうなら見逃してしまうこの小さいながら本質的な異常を発見しました。最初に金君が“もしかして”というデータを持ってきてから、かなりの時間と労力をかけて検証し、議論を重ねました。その過程で私は科学者としてサイエンスの楽しさを堪能し、同時に教員として金君の才能が徐々に開花するのを目の当たりにして、二重の喜びを味わいました。
 また、この研究は私どものグループの実験結果と作村准教授のグループの数理解析を組み合わせた融合研究です。最初はなんだかよくわからないことを激しく議論して、空しく時間ばかりがすぎていきました。しかしそのうちに少しずつ何かが見えてきて、ある時にすっと本質にたどり着いたような気がします。長い時間がかかりましたが、両グループの粘り強さから成果を得たことは、研究者として冥利に尽きます。

作村諭一特任准教授のコメント

 遺伝子の周期発現に関する分子レベルの数理モデル自体は、CELLやエッセンシャル細胞生物学の著者の一人である J. Lewis が提案していました。しかし、Notch シグナルが弱くなると周期が延びるのか縮むのかについてはまだ未解決でした。本研究のマウスの実験観察とJ. Lewis の数理モデルの結果が一致したことは、マウスの体節形成の原理解明に向けて大きな一歩だと考えています。体節形成の実験とモデルについても進んでおり、次の展開が楽しみです。

【概要】

 魚やマウス、ヒトなどのせきつい動物の背骨は、曲がりやすいように、多くの骨(せきつい骨)が積み重なった分節構造を形づくっています。その構造ができる仕組みについては、発生の過程で体内の“生物時計”が刻む約2時間の周期に応じて、せきつい骨のもとになる細胞群が順々に区切られることはわかっていましたが、この生物時計の正確な周期を調節する仕組みは謎でした。
私たちの研究グループは、実験生物学的手法と数理生物学的手法を組み合わせて、生物時計の周期を調節する巧妙な仕組みを明らかにすることに成功しました。

 この生物時計は特定の遺伝子群がONになったりOFFになったりすることを繰り返す(振動する)ことで約2時間の周期を刻んでいます。せきつい骨のもとになる細胞は、細胞外からの刺激をノッチシグナルという情報伝達系を介して感知していますが、マウスを使った実験で、約2時間の周期はノッチシグナルの強弱を利用して、数分の単位で微調整されていること解明されました。私たちは、これまでの研究成果である生物時計の分子メカニズムをもとに数式モデルをつくりシミュレーションを行ったところ、実験結果と一致する結果が得られました。こうしたことから生物時計の周期調節はノッチシグナルが担っていることが証明されました。

 また、せきつい骨の数は動物種によって決まっています。この生物時計は発生の過程の決められた時期にのみ働くので、生物時計の周期がせきつい骨の数を規定する要因の一つと考えられています。この発見により動物種特異的なせきつい骨の数を説明できる可能性があると同時に、胎児環境の変化に適応してせきつい骨の数を一定に保つメカニズムの解明が期待できると考えています。

(2011年08月08日掲載)

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