植物代謝物 -Plant Metabolite-

代謝と代謝物 (Metabolism and Metabolite)

代謝 (Metabolism) とは、生命が生命維持のために生体内で化合物を合成することであり、代謝によって産生される化合物を代謝物 (Metabolite) と言います。一般的には、生命体外部から取り入れた無機物や有機物をつかって、酵素などによる化学反応により、生命維持に必要な化合物に変換していく一連の反応です。代謝は同化 (assimilation、anabolism)と異化 (catabolism) に分類されます。同化の多くは、エネルギ-吸収反応により元素を細胞構築のための分子を合成する反応が多く、低分子から高分子への変換反応が多いことが知られています。代謝経路は反応経路として生体内で全てつながっており、ひとつの代謝経路が変動することにより、他の代謝経路も影響を受け変動するなど、非常に複雑な構造をしています。植物は自身で移動ができないため、植物体の生育環境、特に大気や土壌の栄養条件や病害や乾燥や光などのストレスに暴露された際に、一連につながった代謝経路を制御することで必須代謝の恒常性と生命維持を行っていますモデル植物であるシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) においては、500以上もの生合成経路 (biosynthetic pathway) に分類化されていますが、それぞれの代謝経路における制御などに関しては不明な点が多いと言えます。代謝は大きく分けて、一次代謝と二次代謝に分類されます。

 植物一次代謝物 (Plant Primary Metabolite)

植物体内で産生される化合物で、細胞成長や発生、生殖などに直接関わる必須化合物の総称です。植物科学分野においては、産生できない変異体を作製した際に、致死の表現型を示す代謝物群です。主な化合物として、アミノ酸類、糖類、糖アルコ-ル類、核酸類や有機酸類などが挙げられます。大気中および土壌中から取り込まれた、植物の主要必須栄養元素である水素 (H)、炭素 (C)、酸素 (O)、窒素 (N)、 カリウム (K)、カルシウム (Ca)、マグネシウム (Mg)、リン (P), 硫黄 (S)、および微量必須栄養元素である鉄 (Fe)、ケイ素 (Si) やホウ素 (B) などを植物体内で同化 (assimilation) し、有機化合物へと生合成されます。代表的な一次代謝経路として、解糖経路、クエン酸回路(TCA回路)ペントースリン酸回路やそれぞれのアミノ酸経路などが挙げられます。一次代謝経路は産生能が欠失すると、その世代もしくは次世代で致死の形質を示す生合成経路であることに加え、変動する外部栄養環境から著しく影響を受けるため、生存のために植物は様々な進化戦略をとってきたと考えられています。主な要因として、機能相補性や異なる細胞局在性を示す複数のアイソザイム (isozyme) の存在や、栄養素の細胞間輸送などが挙げられますが、栄養欠乏条件における代謝適応応答 (metabolic reprogramming) による代謝調整と恒常性が重要であることが最近の研究で明らかとなってきています。

植物二次代謝物 (Plant Secondary metaboite, Plant Specialized metabolite)

最近は、植物特化代謝物 (Specialized Metabolites) とも呼ばれています。自然界において多種多様な構造を有する化合物群のうち、植物種固有の代謝物の総称。一次代謝物が植物体の細胞成長、発生、生殖において必須な化合物であるという定義に対して、二次代謝物はそれ以外という定義ではありますが、自然界における生存戦略において必要な化合物であると考えられています。生物活性を有するものが多く、植物の感染防御やその他の種間の防御、または乾燥や強光などのストレスや、栄養欠乏条件下における代謝異常ストレスになど対しても重要な役割を果たしている場合が多いと考えれられています。植物種固有の化合物が多いのは、自生地から移動だできない植物体が環境に応じて様々な二次代謝物を産生することにより、自然環境や栽培化などの進化圧によって多様化したと考えられています。私たちは、薬や健康促進物質、香料などとして用いられることが多い。代表的な代謝経路として、フラボノイド生合成経路、グルコシノレ-ト生合成経路、アルカロイド生合成経路などが挙げられます。

植物ホルモン (Phytohormone)

植物ホルモン (phytohormone) は、植物体自身の生長を調節する作用のある生理活性物質 (植物成長調節物質)であり、情報伝達物質として考えられています。一般的な定義として、1) 植物体内で産生される化合物 (代謝物)であること、2) 植物体内もしくは植物体に対して微量で作用する化合物であること、3) 植物種において普遍的に存在すること、4) 活性本体の化学構造や生理作用が科学的に明らかとされている、物質群です。現在までに、オーキシン、ジベレリン、アブシシン酸、エチレン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、サリチル酸、ストリゴラクトンが低分子化合物植物ホルモンであると考えられています。また、ファイトスルフォカインやCLAVATA3などの細胞分化・増殖誘導作用を示す短鎖ペプチド類や、花成を制御するフロリゲンなどのタンパク質も植物ホルモンとして考えられています。植物ホルモンの産生能が欠失した変異体は致死、もしくは生長過程において形質や発達の異常な表現型を示すものが多いことが知られています。また、植物ホルモンを植物に直接処理することにより、成長、発達・老化、代謝物産生など様々な表現型を示すことが報告されています