リジン残基の13Cメチル化プロトコル

 

タンパク質の化学修飾による13Cラベル導入法 ?NMRによる高分子量の蛋白質間相互作用解析のためのリジン残基のメチル化? 

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奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・大木 出          2012.12.20 v1.4

 

<はじめに>

 近年、個々の分子の機能解析が進み、複雑な生命現象の動作原理の解明には、機能分子間の相互作用や形成された超分子複合体の動態を生体内に近い状態で理解する事がいっそう重要となってきている。構造生物学的手法の一つである核磁気共鳴法(NMR)は、そのような生体内に近い溶液状態での相互作用の動態を原子レベルで見られる数少ない手法の一つであるが、分子量が障害となり一般的には観測対象は30kDa以下の小さなものに限られていた。ただ、タンパク質のメチル基のNMRシグナルのみは分子量の大きさによる影響を受けにくく、疎水性アミノ酸残基のメチル基のみをラベルしMethyl-TROSY法を用いることで分子量が900kDaを超える超分子においても観測が可能ではあるが、メチル基のみをラベルするのは技術的に容易でなく、また疎水性アミノ酸残基はタンパク質内部に埋もれていることが多いためタンパク質間相互作用の解析には向いておらず、これに代わるラベル化技術が求められていた。

 ここで紹介するラベル化技術ーリジン残基の13Cメチル化修飾法ーは、タンパク質表面に同位体ラベルされたメチル基を簡単に導入出来、高分子量タンパク質間相互作用や超分子複合体の解析に有効なツールとなり得るものである。手法自体は、タンパク質と13C標識アルデヒドを反応させてリジン側鎖のアミノ基に特異的に13Cメチル基を付加する事を用いたものであり、反応は穏やかな条件で進行するため、安定にあらゆる精製タンパク質を13Cメチル基で標識することが可能である。また、メチル化されたリジンは本来の静電的性質が保たれており、タンパク質全体の構造変化も小さいことが知られている。修飾するタンパク質自体は特に同位体ラベルされている必要がないため、これまでNMRで解析する事が難しかった生体組織や細胞由来の試料にも適用可能である。なお、メチル基シグナルの帰属はリジンをアルギニンに変異させる事で分子量に関わらず行える。

 

<メチル化反応について>

 基本的には、結晶構造解析の分野で広く用いられているリジンのメチル化修飾プロトコル(Walter et al, Structure 14, 1617-1622 (2006))を用いている。メチル化は簡単な操作を数回繰り返すだけであり、反応は1日で終わる。タンパク質を1 mg/ml以下になるように調製し(濃度が濃いと反応中に沈殿しやすくなるため)、バッファーは第1級アミンをもたないものを用いる(論文中では50 mM HEPES, pH 7.5, 250 mM NaClを用いている。Tris bufferは使用できない)。塩はあってもなくても良い。pHが重要であり、ずれると副反応が起こりやすくなる(そのため50mM程度のバッファー濃度を推奨)。プロトコルに従えば、リジンのアミノ基以外に修飾はほぼ起こらない。

<反応式>

 リジン残基の側鎖アミノ基のメチル化反応(Reductive Alkylation/Reductive Amination)は以下の二段階で進行する。最終的にジメチルリジンが生成する。

<実験プロトコル>

  1. タンパク質溶液は50mM HEPES, pH 7.5(塩強度は10-300mM程度)に透析し、1mg/ml程度の濃度にしておく。還元剤やアミン類(Tris buffer等)は少量でも反応を阻害するので除く。
  1. サンプル1 ml当たり20 μlの1 M dimethylamine-borane complex (DMAB)*1、40 μlの1 M formaldehyde-13C*2を加え、穏やかに混合する*3
  1. 4℃, 2時間 インキュベート
  1. サンプル1 ml当たり20 μlの1 M DMAB、40 μlの1 M formaldehyde-13Cを加え、穏やかに混合する
  1. 4℃, 2時間 インキュベート 
  1. サンプル1 ml当たり10 μlの1 M DMABを加え、穏やかに混合する
  1. 4℃, overnight インキュベート
  1. ゲルろ過によりサンプルとメチル化試薬を分離、精製(この時、Tris bufferを用いるとメチル化反応を止めることができる)

*1: ALDRICHからBorane- dimethylamine complex, 97 %が販売されている。加水分解するので溶液は要時調製(使用1分前に粉末をDWで溶かして調整)。可燃性粉末。4℃保存。アミン臭。Sigma 180238-5G ¥3,300。反応中間体のイミン(Shiff base)の還元を行う。イミンに対する選択性が高く還元力は弱いためタンパク質内のS-S結合は還元されない。糖鎖にも影響しない。

*2: SIGMAからFormaldehyde solution, for molecular biology, 36.5 %が販売されている(Sigma F8775, 25ml ¥3,400)。古かったり低温保存するとパラホルムアルデヒド(白色沈殿)が生じ、メチル化産物の均一性などに影響するので注意する。また酸化されるとギ酸を生じ溶液が酸性化するので注意。12倍希釈すると1 M溶液になる。要時調製。13C-ラベル化を行う場合は、Cambridge Isotope Lab (CIL)より出ているFormaldehyde-13C(99%), 20 %を使用して、1Mに希釈して使用する。CIL Cat No. CLM-806, 1ml. ¥67,000(国内ならSIサイエンス等で取り扱い)。劇物、有毒。室温保存。

*3: DMAB、formaldehydeの混合はドラフト内で行う。

 

<反応の注意点など>

  1. 反応スケールは数ml程度ならエッペン、ファルコンで、数十mlならガラスビーカーでスターラーを回しながらやると良い(on iceで)。反応時はタンパク質濃度は上げず(1 mg/ml)、最後DMABを加えてovernight反応させた後にamiconで濃縮を行ってゲル濾過にかけた方がよい。その場合も極端に濃縮(5 mg/ml以上)はせず、ゲル濾過の回数を増やすべき。ゲル濾過時はカラムボリュームに対してあまり多量にロードすべきではない(試薬が残る)。Superdex 75 Hiroad 26/60 (bed vol. 320 ml)ならロードは2 mlに抑える。これで一回10mg分離出来る(2 ml x 5 mg/ml)。試薬は細胞毒性があるので、ゲル濾過後のタンパク質溶液にアミン臭がしていないか注意する。
  2. 反応溶液にはDTT、βメルカプトエタノールなどの還元剤が含まれていると副反応が起こってタンパク質が沈殿することがある。メチル化試薬を除去した後(ゲル濾過後)であれば、加えるのは問題ない。
  3. 反応後、反応溶液に高濃度のTrisを加えると沈殿が起こることがある。反応を止めるのは、反応液を直接50mM Tris等で平衡化したゲル濾過にかけるのが最も安全である。透析は少量のメチル化試薬は残るので、ゲル濾過にかけずらい膜タンパク質等の場合以外おすすめしない。
  4. 反応後のメチル化試薬の除去にはゲル濾過カラムを推奨するが、HiPrep Deasalting Column (GE)やMicroSpin G-25 Column(GE)も使用できる。
  5. 反応を止めるのにアミノ酸を用いても良い(Glycineなど)。アミノ基を持っていれば使用できる。
  6. 急に沈殿が出るような場合は反応自体でなくバッファー組成か試薬の問題である事が多い。その場合は反応時は出来るだけ余計な成分を除いてバッファーのみで反応時間を短縮(30min,30min,1hr)して行い、その後、反応を止めてから必要な成分を足す。また、古いアルデヒド、還元剤の使用は避ける(特にアルデヒド)。
  7. 反応時に気泡が生じるが、遠心で除くとよい(気泡はdimethylamine-boraneの加水分解により発生した水素ガス)。
  8. 反応後は必ずマススペクトルで導入効率をチェックする。リジン1残基あたり分子量は28 Da(13Cなら30 Da)増える。N末端のアミノ基もメチル化される。よって、100%メチル化された場合は、(リジン残基数+1) x 28 Daだけ分子量が増える計算になる。
  9. 初めてメチル化反応を行う際には15Nラベル化タンパク質を用い、反応前後で15N-HSQCスペクトルを比較する。Ubiquitinの場合はK27のアミノ基がタンパク質内部に埋もれて他の残基と水素結合を組んでおり、メチル化を行うとK27周辺の15N-HSQCシグナルが比較的大きく変化するが、FKBPや試した他のタンパク質ではそれほど大きな変化は見られない。
  10. 現在までに、リジンをメチル化修飾した結晶構造が100例近く報告されている(メチル化ヒストンを除く)。ジスルフィド結合や糖鎖があるような細胞外受容体ーリガンド複合体の構造解析にも使用されており(IL2-IL2R/IL15-IL15RIL13-IL13R麻疹ウイルスヘマグルチニン-受容体等)、そのような蛋白質間相互作用の解析にも使う事が出来る。
  11. このプロトコル(formaldehyde過剰量)を使用すれば100%のリジンがジメチル化されるが、aldehyde量を減らすと(タンパク質Lysモル数:aldehyde=1:2とか)、タンパク質内部や塩橋を組んでいるリジンがメチル化されなかったり、モノメチル化された産物が出てくる。100%のメチル化にはLysモル数の20倍以上のformaldehydeが必要(Rayment 1997)。

<参考文献>

  1. Means GE, Reductive alkylation of proteins, J Prot Chem 3, 121-130 (1984).
  2. Rayment I, Reductive alkylation of lysine residues to alter crystallization properties of proteins, Methods Enzymol 276, 171-9 (1997). [pubmed]
  3. Walter TS et al., Lysine methylation as a routine rescue strategy for protein crystallization, Structure 14, 1617-22 (2006). [pubmed]
  4. Shaw N et al., (NZ)CH...O contacts assist crystallization of a ParB-like nuclease, BMC Struct Biol 7 (2007). [pubmed]

何か気付いたこと、ご指摘等がありましたら大木(i-ooki @ bs.naist.jp)までお知らせ下さい。

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