成果報告
論文No.040
MYB3R1およびMYB3R4遺伝子の変異は、シロイヌナズナおいて多面的な発生異常とG2/M期特異的遺伝子群の発現の低下を引き起こす。
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羽賀望、小林耕介、鈴木孝征、前尾健一郎、久保稔、大谷美沙都、光田展隆、出村拓、中村研三、Gerd Jurgens、伊藤正樹
- Plant Physiol. 157, 706-717 (2011)
Haga, N., Kobayashi, K., Suzuki, T., Maeo, K., Kubo, M., Ohtani, M., Mitsuda, N., Demura, T., Nakamura, K., Jurgens, G. and Ito, M. Plant Physiol. 157: 706-717 (2011)
植物の発生過程における細胞の分裂は、個々の細胞の細胞周期が制御されることによって調節されており、これには細胞周期制御に直接関わる遺伝子の発現を制御することが重要であると考えられています。私たちは以前に、2つのMyb転写因子(MYB3R1とMYB3R4)が細胞質分裂に必至なKNOLLE遺伝子の転写活性化を通じて、シロイヌナズナの細胞質分裂を正に制御している可能性について報告しました。今回の論文では、この2つのMyb遺伝子の変異体を用いて、マイクロアレイ解析による網羅的な遺伝子発現解析と詳細な表現型の解析を行いました。シロイヌナズナのmyb3r1 myb3r4二重変異体では、KNOLLE遺伝子以外にも多くのG2/M期特異的遺伝子 (G2/M期遺伝子)の転写産物レベルが低下していました。また、このような遺伝子のゲノム塩基配列を調べると、MSAエレメントと呼ばれるM期特異的転写活性化に関わるシスエレメントが過剰提示されていることがわかりました。この二重変異体では不完全な細胞質分裂が引き起こされるほか、細胞レベルおよび個体レベルの多面的な異常が生じていました(図1)。このような結果から、MYB3R1とMYB3R4はMSAエレメントに結合し、G2/M期遺伝子の転写を活性化することにより、細胞分裂を正に制御していること、また、このような制御が植物の発生における多くの局面に重要であることを示しました(図2)。
図1 myb3r1 myb3r4二重変異体の表現型
MYB3R1とMYB3R4の2つのMyb遺伝子に変異を持つシロイヌナズナでは、花茎の矮性化、芽生えの形態異常、胚発生における分裂パターンの異常など、多面的な異常が生じていました。
図2 シロイヌナズナにおけるG2/M期特異的遺伝子の転写制御機構
これまでにMYB3R1とMYB3R4がMSAエレメントへの結合を通じてKNOLLE遺伝子などいくつかのG2/M期遺伝子の転写を活性化させていることが明らかになっていました。今回のゲノム規模での研究により、多くのG2/M期遺伝子が同様の機構により制御されていることが明らかになりました。