成果報告

論文No.039

ラムノガラクツロナンIIの生合成に必要な酵素、CTP:KDOシチジル酸転移酵素の研究

小林優、高津渚、稲見明奈、豊岡公徳、小西由起、松岡健、間藤徹
Plant Cell Physiol. 52, 1832-1843 (2011)

Kobayashi, M., Kouzu, N., Inami, A., Toyooka, K., Konishi, Y., Matsuoka, K. and Matoh, T. Plant Cell Physiol. 52: 1832-1843 (2011)

 植物の必須元素ホウ素は細胞壁に局在し、ペクチンのラムノガラクツロナンII(RG-II)領域とホウ酸エステルを形成しています。このホウ酸RG-II複合体(B-RG-II)の生理機能はいまだ明らかではありません。そこで本研究では、B-RG-IIの構造変異の影響を解析しました。 3-デオキシ- D -マンノ-2-オクトン酸(KDO)はRG-IIの特異的構成糖です。KDOは、糖転移酵素によってRG-IIに組込まれる前に、糖ヌクレオチドCMP-KDOに変換されなければなりません。この変換を触媒するCTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)の変異株はKDOをRG-IIに組込むことができず、B-RG-IIの構造に異常を来たすと考えられます。 しかしながら、CKSを完全に欠くシロイヌナズナ変異株は得られませんでした。これは変異で花粉の授精能力が失われるためでした。雌性配偶子には変異の影響は見られません。また花粉についても、花粉管の伸長は阻害される一方、花粉形成は正常でした。これらの結果は、B-RG-IIは花粉管のように急速に伸長する細胞で特に重要であることを示し、複合体の機能に関して重要な示唆を与えるものです。なお本成果はPlant & Cell Physiology誌2011年10月号の表紙に採用されました。

Fig. 1

図1 CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)が触媒する反応
KDOがRG-IIに組込まれるためには、予めCKSによりCMP-KDOとして活性化されなければならない。

Fig. 2

図2 cks変異は花粉管伸長を阻害する
1個の花粉母細胞の減数分裂で生じる4個の花粉粒が分離しないquartet1qrt1)変異株をバックグラウンドとする+/cksヘテロ株を作出した。この二重変異株から得られる花粉粒は、4個1組の花粉粒のうち2個は正常なCKS遺伝子、残りの2個は変異型cks遺伝子を有する。4個の花粉粒は生死判定法であるアレキサンダー染色(a)、核の形状を観察するDAPI染色(b)のいずれでも区別ないことから、cks変異は花粉の形成には影響しないと考えられる。しかし花粉を寒天上で発芽させるin vitro発芽試験では、ヘテロ株由来の花粉では変形・破裂した花粉管が多数観察され(c中の矢じり)、cks変異は細胞壁強度の低下を通じて花粉管伸長を阻害することが示唆された。