NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

DNAポリメラーゼの新しい役割- 真木智子助手らの研究グループの論文がJ. Biol. Chem. 誌のPapers of the Weekに選定 -

同じ遺伝情報を持つ細胞であっても、異なるクロマチン構造を持つ細胞集団間では異なった表現型を示す、いわゆるエピジェネティックな現象にはクロマチン構造の維持が重要な役割を果たす。細胞分裂に伴うクロマチン構造の複製は染色体DNAの複製と綿密な連関をもってなされるが、最近になって、新生鎖DNA合成に関わるDNAポリメラーゼε(Polε)が正確なクロマチン構造の複製にも関与することが示唆された。バイオサイエンス研究科・真木智子助手らの研究グループは、Polε複合体の構成サブユニットであるDpb3pおよびDpb4pタンパク質がヒストンH2A-H2Bと構造的に極めて類似したヘテロ二量体を形成し、二本鎖DNAをその周りに巻き付けること、また、両サブユニットの働きによりPolεが二本鎖DNAと安定に結合することを明らかにした。さらに、このPolεとDNAとの相互作用が出芽酵母のヘテロクロマチン様構造の維持に重要な役割を果たすことを示した。これは、真核生物の複製酵素の少なくとも一つは、ヒストン様サブユニットの働きによりクロマチン構造の維持や変化のプロセスに関与することを初めて明らかにしたものである。この研究成果は、米国の専門誌であるJournal of Biological Chemistry誌の本年10月27日号で公表され、この号の「Papers of the Week」に選定されている(紹介記事: A New Role for DNA Polymerase. J Biol Chem 281, 99933, October 27, 2006)。ちなみに、10月27日号の表紙には本研究成果をモチーフにした図案が採用されており、そのデザインは真木智子助手と共著者の情報科学研究科情報生命科学専攻の川端猛助教授の合作である。


図 J. Biol. Chem. 2006年10月27日号の表紙デザイン:遺伝子サイレンシング維持を示す出芽酵母コロニーとDNAに相互作用するPol εヒストン様サブユニットのモデル

掲載論文

Tsubota, T., Tajima, R., Ode, K., Kubota, H., Fukuhara, N., Kawabata, T., Maki, S. and Maki, H. (2006) Double-stranded DNA binding, an unusual property of DNA polymerase ε, promotes epigenetic silencing in Saccharomyces cerevisiae. J Biol Chem 281, 32898-32908.

(2006年11月10日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook