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根冠組織の不思議なはたらき

根の先端には、ペン先にはめ込まれたキャップのような「根冠」組織が分化します。根冠は小さくて目立たない組織ですが、根と土壌の間の摩擦の軽減や、重力感受、分裂組織の保護など根の成長に必須の機能を担っています。また、代謝産物の分泌や根冠細胞自体の剥離によって、土壌微生物との相互作用をも担っています。このような根冠に独特の機能はどのように発揮されるのでしょうか?

根冠はその生理機能のみならず、発生学的に見ても非常に興味深い組織です。根冠は植物種により数層から十数層の細胞層から成り、内側の幹細胞から常に新しい細胞が供給され、外側の古い細胞が順に剥離してゆきます。このようなターンオーバーにより、成長する根のフロントラインである根冠には、常に生理活性の高い新しい細胞が配置されます。また、根冠細胞の剥離は自律的で、細胞が一定の間隔で生きたまま剥離してゆきます。このようなユニークな性質はどのように実現されているのでしょうか?

 

私たちは、前のページに紹介した独自のアクティベーションタギング法で、シロイヌナズナの根の表皮細胞が根冠細胞のように変換してしまう変異体を見つけました。その原因は、植物に特異的なNAC転写因子の1つが根の全体で過剰に発現したためでした。この遺伝子は、その後間もなくオランダのグループからSOMBRERO (SMB)という名前で論文発表されました。また、シロイヌナズナのゲノムには、SMBに相同なタンパク質が他に2つコードされており、これらは、BEARSKIN1とBEARSKIN2 (BRN1とBRN2)と名付けられました。SMB, BRN1, BRN2の3つの転写因子が、根冠の分化や成熟を制御することが示されていましたが、3つの制御因子の使い分けや、転写調節している標的遺伝子は不明でした。

私たちは、これら3つの転写因子の発現を詳細に調べ、SMBが分化した根冠全体で発現するのに対し、BRN1とBRN2は根冠の外側の1-2層のみで特異的に発現していることを見出しました。また、これらの転写因子の制御下で働く遺伝子を探索し、60個の候補遺伝子を見つけました。これらの中には、細胞壁の構造を変化させる酵素タンパク質や、細胞外への分泌に働くと推定されるタンパク質をコードするものが多く含まれていました。

 

まず手始めに、細胞壁を構成する主要な多糖の1つであるペクチンを分解するポリガラクツロナーゼ(polygalacturonase = PG)をコードする遺伝子に着目し、これをRCPG (ROOT CAP POLYGALACTURONASE)と名付けました。RCPGは剥離する前の根冠最外層で急激に発現が誘導され、つくられたRCPG酵素タンパク質は、最外層の細胞外に分泌されることが分かりました。

 

また、野生型植物の剥離する根冠細胞層が皿状に開いた形をとるのに対し、RCPG遺伝子を欠損した植物(rcpg変異体)の根冠はキャップ型の形を維持したままでした。反対にRCPGを過剰発現させると、根冠の細胞剥離が促進されることが分かりました。さらにRCPG遺伝子の発現は、BRN1転写因子によって直接活性化されていることが分かりました。

 

以上の結果から、根冠最外層で発現するBRN転写因子がRCPGの発現を活性化させ、生産されたRCPG酵素タンパク質が細胞壁のペクチンを分解して、細胞の剥離を促進していることが分かりました。つまり、根冠の最外層の細胞が、組織内の位置を感知し、自らの細胞壁を分解して根の先端から切り離すという、ユニークな仕組みが存在することが明らかになりました。

一方で、rcpg変異体においても根冠細胞の剥離は完全には阻害されていませんでした。このことは、根冠細胞の正常な剥離には、RCPG以外の遺伝子産物も寄与していることを示唆しています。今回見つかった遺伝子の中には、他にも細胞壁成分の代謝や分泌作用を担うと推定される遺伝子が含まれており、今後はこれらの遺伝子の変異体を解析することで、根冠が果たすユニークかつ多様な機能に対する理解が進むことが期待されます。

この研究を発表した論文
Kamiya, M., Higashio, S., Isomoto, A., Kim, J-M., Seki, M., Miyashima, S. and Nakajima, K., Control of root cap maturation and cell detachment by BEARSKIN transcription factors in Arabidopsis. Development 143, 4063-4072. (2016). PubMed Publisher Press 


この研究は、新学術領域研究「植物発生ロジック」の支援を受けて行っているものです。