HOME | RESEARCH | 位置情報


位置情報が創る組織パターン

転写因子はゲノムDNAからmRNAへの転写を調節するタンパク質で、ふつうは核内に局在しています。ところが核と細胞質の両方に局在し、細胞から細胞へ移動する転写因子が見つかっています。また最近、遺伝子発現を転写後調節するマイクロRNA分子の中にも、細胞間を移行するものが見つかっています。私たちの研究により、これらが根のパターン形成で巧妙な働きをしていることが分かってきました。

 

根の組織は同心円状に配置します。その中に「内皮」と呼ばれる、ミネラルの選択的な取り込みや根の成長制御に重要な細胞層があります。内皮は、どのような植物種でも必ず維管束を含む「中心柱」の外側に接して1層だけ分化します。

 

内皮の分化にはSHORT-ROOT (SHR)という転写因子が重要な役割を果たします。SHRは中心柱で作られますが、1つ外側の細胞層へ移動し内皮の分化を制御します。

 

SHRは維管束の分化にも重要な働きをしています。シロイヌナズナの維管束には、原生木部導管(protoxylem =PX)と後生木部導管(metaxylem =MX)という2種類の導管があります。これら2種類の導管が正常に分化するためには、PHABULOSA (PHB)という転写因子の発現が維管束の中央部分だけに限定される必要があります。このPHB発現の限定化は、miR165というマイクロRNAが、PHBのmRNAを特異的に分解することによります。驚くべきことに、miR165はPHBが抑制されている維管束ではなく、外側の内皮で特異的に発現しています。そして、このmiR165の発現がSHRによって転写制御されていることが分かりました。

 

実際に、SHR遺伝子を欠く変異体の根ではmiR165の発現量が大きく低下し、PHBの発現が中心柱全体へと拡大しています。その結果、2種類の導管細胞が正常に分化できず、本来PXが出来る位置にMXが分化してしまいます。以上のことから、SHRによって内皮で発現したmiR165が中心柱へと移動し、そこでPHBのmRNAを分解することで、その発現場所を維管束の中央に限定化していることが分かりました。このように根の中心柱と内皮の間には、転写因子とマイクロRNAの細胞間移行による、双方向の細胞間コミュニケーション経路が存在し、これが根の複雑な細胞パターンの形成に機能していることが分かりました。
 
この研究を発表した論文:
Miyashima, S., Koi, S., Hashimoto, T., and Nakajima, K., Non-cell-autonomous microRNA165 acts in a dose-dependent manner to regulate multiple differentiation status in the Arabidopsis root. Development. 138, 2303-2313 (2011). PubMed Publisher Press