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生殖細胞がつくられる仕組み

生殖細胞は不思議な能力をもった細胞です。まず、多細胞系を構成する様々な細胞を作るための多能性を持っています。また、同じ種の異なる性をもつ生殖細胞とだけ受精することが出来ます。その際には、細胞どうしが融合し、核内の遺伝情報が混ぜ合わされます。このような不思議な能力は、どのようにして獲得されるのでしょうか?

動物の生殖細胞系列は、胚発生の段階で既に取り分けられています。つまり動物の個体は、生まれる前から既に生殖細胞の前駆細胞をもっているのです。これに対して植物では、個体の成熟後に生殖器官が作られ、その中に生殖細胞が作られます。つまり分化した多細胞系をリプログラミングして、多能性と受精能をもった生殖細胞を新たに作り出す必要があります。

 

植物が生殖細胞を作る過程は大変に興味深いのですが、その仕組みは全く分かっていません。それはシロイヌナズナなどの種子植物では、生殖細胞が花器官の奥深くで作られるために観察が容易でない上、半数体の生殖細胞を作るのに必須の遺伝子の変異体を維持することが出来ず、形態を解析するのが困難なためです。

私たちは新しいモデル植物であるゼニゴケを使うことで、この問題を解決できることに気が付きました。ゼニゴケは、生活環のほとんどを半数体で過ごす雌雄異株の植物で、体表面に近いところに比較的大きな生殖細胞を作ります。また無性生殖でも増殖できるため、生殖細胞を作れない変異体を維持することが出来ます。

 

ゼニゴケのゲノムには、RKD遺伝子が1つだけ存在しています。これをMpRKD遺伝子と名付けました。MpRKDはシロイヌナズナのRKD4遺伝子の相同遺伝子です。ゼニゴケでMpRKDをノックアウトすると、卵や精子の形成段階が特異的に阻害されることが分かりました。シロイヌナズナでは、RKD4の相同遺伝子がほかに4つあり、それらのいくつかは卵細胞で発現しています。どうやらRKD遺伝子は植物の進化を通して保存された、生殖細胞形成の制御遺伝子のようです。今後はMpRKD遺伝子の働きに着目して、植物が生殖細胞をつくる仕組みを明らかにしてゆきたいと思います。

この研究を発表した論文
Koi, S., Hisanaga, T., Sato, K., Shimamura, M., Yamato, K. T., Ishizaki, K., Kohchi, T., and Nakajima, K. An evolutionarily conserved plant RKD factor controls germ cell differentiation. Curr. Biol . 26, 1775-1781. (2016). PubMed Publisher Press 

この研究は、科学技術振興機構・さきがけ「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出(CO2 資源化)」、および新学術領域研究「植物発生ロジック」の支援を受けて行っているものです。