複製フォーク進行阻害のモニターとしてのrDNA領域
マルチレプリコンから構成されている真核生物ゲノムのDNA複製においては、多数の複製開始点からの複製開始のタイミングや順番がプログラムされている。私たちは、複製開始制御に乱れが生じると、出芽酵母細胞はチェックポイント制御を発動して、細胞周期をG2/Mで停止させ、乱れの程度が強い場合にはアポトーシスを引き起こすことを発見しました。最近になり、このS期進行異常は150コピーの繰り返し構造を持つrDNA領域においてまず最初に感知されることを見いだしました。細胞のDNA損傷応答にもrDNA領域が関与するかどうかについても研究を始めています。
この研究テーマに関連する発表論文とその解説
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Ide S., Miyazaki T., Maki H. and KIbayashi T. (2010)
Abundance of ribosomal RNA copies maintains genome integrity.
Science 327, 639-696 (PubMed 20133573)準備中。
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Ide, S., Watanabe, K., Watanabe, H., Shirahige, K., Kobayashi, T., and Maki, H. (2007)
Abnormality in initiation program of DNA replication is monitored by the highly repetitive rDNA array on chromosome XII in budding yeast. Mol Cell Biol, 27, 568-578. (PubMed17101800)染色体の維持・伝達には、各種のDNA修復経路に加えて細胞周期のチェックポ イント機構が重要な働きを持つ。染色体DNA上の損傷が修復されずに残っている場合や、染色体DNAの複製に異常が生じている場合、さらに染色体複製が完了しない場合に、細胞周期の進行を停止して、染色体上のトラブルを解消する様々な機構を活性化するからである。もし、染色体上のトラブルが解消できない時には、チェックポイント機構の働きにより細胞死が誘発され、染色体異常を持つ細胞は細胞集団から排除される。我々は以前に、DNA複製の開始制御の異常が染色体異常を誘発することを見いだし、それがチェックポイント機構により強く抑制されていることを明らかにした。今回、DNA複製の開始制御の異常は染色体の特定の部位、すなわちrRNAをコードするrDNA領域でモニターされることを見いだした。rDNA領域は真核生物では100~200回の連続した繰り返し配列になっており、このコピー数の大きさが複製開始制御異常のモニターの感 度を規定することも明らかになった。これは、rDNA領域およびそのコピー数がゲノムの安定性を保証する機構で重要な役割を持つことを示す最初の知見である。
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Watanabe, K., Morishita, J., Umezu, K., Shirahige, K., and Maki, H. (2002). Involvement of RAD9-dependent damage checkpoint control in arrest of cell cycle, induction of cell death, and chromosome instability caused by defects in origin recognition complex in Saccharomyces cerevisiae. Eukaryot Cell, 1, 200-212. (PubMed12455955)
マルチレプリコンを持つ真核生物ではDNA複製開始制御の異常により染色体異常が高頻度に誘発されることを初めて示した。また、この染色体異常の誘発はDNA損傷チェックポイントにより強く抑制されることを見いだした。さらに、損傷の程度が強い場合には、チェックポイント制御の下流にある細胞死誘発機構が発動することを明らかにした。