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複製フォークの進行阻害と回復の分子機構

 複製フォークが鋳型DNA上の損傷部位に来たとき、複製フォークはどのようになるのか?精製した複製装置の酵素群と特別なプラスミドDNAを用いて、試験管内で複製フォークを再構成して、損傷を持つDNA上での動態を生化学的に研究しています。損傷乗り越えDNAポリメラーゼの働きについても調べています。

この研究テーマに関連する発表論文とその解説

  • Furukohri A., Nishikawa Y., Akiyama T.M. and maki H. (2012)
    Interactionbetween Escherichia coli DNA poluymerase IV and the single-stranded DNA-binding portein is required for DNA syntheisis on SSB-coated DNA.
    Nucleic Acids Research 40, 6039-6048 (PubMed22447448)

     大腸菌のDNAポリメラーゼIV(Pol IV)は、鋳型となるDNAに損傷があっても複製できる損傷乗り越え型DNAポリメラーゼである。大腸菌粗抽出液よりPol IVと相互作用する因子を回収したところ、質量分析により一本鎖DNA結合タンパク質SSBが同定された。また精製したPol IVとSSBを用いた生化学的解析により、この相互作用がSSBのC末端tail領域を介することが示された。驚いた事に、Pol IVと相互作用できないtail変異型SSB存在下ではPol IVのDNA合成反応が著しく阻害されること、またそれはPol IVのDNA鎖伸長速度が低下したためであることが明らかとなった。SSBは他の多くのDNAポリメラーゼとも相互作用することが知られている。本研究で明らかになったSSBとDNAポリメラーゼの相互作用の重要性は、SSBのDNA複製における役割を考えるうえで大変興味深い。

  • Furukohri A, Goodman MF, Maki H.(2008)
    A dynamic polymerase exchange with Escherichia coli pol IV replacing pol III on the sliding clamp.
    J Biol Chem 283(17), 11260-11269 (PubMed18308729)
    (a Journal of Biological Chemistry (JBC) Paper of the Week)

     大腸菌の染色体DNA複製は主としてDNA Polymerase III (Pol III)が行っている。しかし鋳型DNA鎖上にUVや薬剤などによる損傷を受けた塩基があると、このポリメラーゼはDNA合成を停止してしまう。そこで、損傷乗り越えDNA合成(translesion synthesis, TLS)ポリメラーゼと呼ばれる特殊なDNAポリメラーゼが損傷部位を合成し、DNA複製反応を継続させると考えられている。しかし、このDNAポリメラーゼの交代(ポリメラーゼスイッチ反応)がどのようなメカニズムで起こるかはよく解っていない。この研究では、大腸菌のTLSポリメラーゼの一つであるPol IV(DinB)を用いて、試験管内でPol IIIからPol IVへのポリメラーゼスイッチ反応を再構成し、その過程を詳細に調べた。その結果、Pol IVには能動的にポリメラーゼスイッチ反応をおこす活性があることが示された。これらの結果は大腸菌のポリメラーゼスイッチ反応のメカニズムを理解するための極めて重要な知見であると考えられる。

  • Yanagihara F, Yoshida S, Sugaya Y, Maki H.(2007)
    The dnaE173 mutator mutation confers on the a subunit of Escherichia coli DNA polymerase III a capacity for highly processive DNA synthesis and stable binding to primer-template DNA.
    Genes Genet Systems 82(4),273-280 (PubMed17895578)
  • Maki, H.(2004). DNA Polymerase III, Bacterial. in Encyclopedia of Biological Chemistry, 1, 729-733, Academic Press.
  • Higuchi, K., Katayama, T., Iwai, S., Hidaka, M., Horiuchi, T., and Maki, H. (2003). Fate of DNA replication fork encountering a single DNA lesion duringoriC plasmid DNA replication in vitro. Genes Cells., 8, 437-449. ( PubMed12694533 )

     DNA複製フォークの進行におよぼす鋳型DNA上の単一DNA損傷の影響を試験管内oriCプラスミドDNA複製系を用いて解析した。その結果、ラギング鎖上の損傷は損傷付近の岡崎断片の合成は阻害するが、複製フォークの進行自体には影響を及ぼさないことが示された。一方、リーディング鎖上の損傷は、リーディング鎖合成を強く阻害すると共に複製フォークの進行にも大きな影響を与えることが明らかになった。

  • Sugaya, Y., Ihara, K., Masuda, Y., Ohtsubo, E., and Maki, H. (2002). Hyper-processive and slower DNA chain elongation catalysed by DNA polymerase III holoenzyme purified from the dnaE173 mutator mutant of Escherichia coli. Genes Cells, 7, 385-399. (PubMed11952835)

     大腸菌の強いミューテーター変異dnaE173がコードする変異型αサブユニットを持つDNAポリメラーゼIIIホロ酵素を精製し、そのDNA鎖伸長反応を野生型ホロ酵素と比較した。その結果、dnaE173ホロ酵素は野生型よりも顕著に強いDNA結合を示し、その鎖伸長速度は野生型の1/3に低下しており、複製型DNAポリメラーゼが持つ校正機能の分子機構について新しいモデルが提唱された。

  • Seki, M., Akiyama, M., Sugaya, Y., Ohtsubo, E., and Maki, H. (1999). Strand asymmetry of +1 frameshift mutagenesis at a homopolymeric run by DNA polymerase III holoenzyme of Escherichia coli. J. Biol. Chem., 274, 33313-33319. (PubMed10559208)
  • Fujii, S., Akiyama, M., Aoki, K., Sugaya, Y., Higuchi, K., Hiraoka, M., Miki, Y., Saitoh, N., Yoshiyama, K., Ihara, K., Seki, M., Ohtsubo, E., and Maki, H.(1999). DNA replication errors produced by the replicative apparatus ofEsherichia coli. J. Mol. Biol., 289, 835-850. (PubMed10369765)
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